第2話


「朱里ー、遅刻するわよー!」


「はーい」


リビングからお母さんに呼ばれ、ハッと我に返る。


「……よし! これで完成!」


部屋を出る前に、腰まである黒髪を上にキュッと結んだ。


私はスクール鞄を肩にかけ、バタバタと階段を下りて、玄関の扉を開けた。


「お母さん、行ってきます~!」


「行ってらっしゃい。

お母さんも後から行くからね」


桜舞う今日は入学式。


素敵なことが起きますように……と心の中で呟きながら私は学校へ向かった。



星ヶ丘高校。

中高一貫の学校で、私立の中でもかなり偏差値が高い名門校で、元は超お金持ち学校。

だが、今は数多く私みたいな庶民も通っており、学費も庶民でも払える金額になったんだとか。


一部の生徒は、本当にお金持ちの御曹司や令嬢なんかもいたりすると噂で聞いた。


私は家から一番近いということもあり、この学校を選んだ。とはいえ、受験はめちゃくちゃ難しかったのはここだけの話。


「桜、きれいだなぁ」


学校近くまで着くと、桜の木があり、まさに桜並木の景色だった。


この桜並木を越えた先に、私の通う学校がある。


「黒炎くんもどこかで桜、見てるのかな」


私は立ち止まって、桜を眺めていた。


初恋の人、黒炎くんのことを想いながら……。



「そこ、どいてくれぇぇぇ!」


「!?」


桜を悠長に見ていたのも束の間、目の前には迫りくる自転車。

私はギュッと目を瞑り、(死ぬ)覚悟を決めた。


「間一髪、だな。そこのお前、大丈夫か!?」


「う、うん……」


ゆっくりと目を開けると、自転車は身体に触れるか触れないかの瀬戸際で止まってくれた。


(死ぬかと、思った……)


心臓の音がバクバクと鳴りやまない。心拍数が早いのが自分でもわかる。

私は、怖さのあまり、腰が抜けた。ペタリとその場に座る私。


自転車に乗っていた男の子は、自転車を止め、私のことを心配してくれてか傍に駆け寄ってきてくれた。


「急に自転車のブレーキがきかなくなってな。

そしたら、目の前に女子が止まってるのが見えて、さすがに声上げてしまった。本当に悪かった。怪我とかしてないか?」



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