第22話 体育祭があるらしい。

 ゴールデンウィークが終わって数日が経った。


 うちの高校はこれからしばらくの間、騒がしくなる。

 なぜなら、数週間後に控えた体育祭の準備期間に入るからだ。その期間中は昼休みも放課後も、生徒たちが一丸となって練習をする。


 こんな時期にやるのは、受験期間に入る前に行った方が3年生も楽しめるからだとかそんな話を聞いた気もする。真偽は確かではないが。


 とにかく、ゴールデンウィークの終わりとはそんな期間の始まりを示していた。



「体育祭かぁ……」


「ヒロさんは毎年、あまり乗り気ではありませんね」


「運動はあんま得意な方でもないからなぁ」


 その上、帰宅部の俺はいつでもどこでも運動不足である。

 体育祭なんてものは結局、運動部が活躍するための舞台だ。

 俺みたいに運動が出来ない上に友達もいない日陰者は、隅っこで邪魔しないようにするだけで精一杯。


 ちなみにユキは運動ができる。

 運動部以上と言ってもいいくらい、できる。

 体育祭ではユキがチームにいるだけで喜ばれることだろう。


 俺と幼馴染のスペック差がヤバい件。


「私はヒロさんと一緒なら楽しいと思いますよ」


「それは同じチームになってから言おうな」


「きっと同じですよ。クラスも同じでしたし」


 ユキは自信満々にドヤ顔でそう答える。

 さすがにフラグな気がするなぁ。


 いやでも、体育祭のチームは紅軍こうぐん白軍はくぐんの2つしかない。クラスに比べれば一緒になる可能性はよっぽど高いか。


 そんなことを考えていると元気な茶髪少女がこちらにやってきた。


「おっはよー! 藤咲さん! 浅間くん!」


「おはよう」


「おはようございます。星乃さん」


 GW後、すっかりいつもの調子に戻った星乃夏帆ほしのかほである。むしろ前より元気いっぱいかもしれない。


「朝からテンション高いな」


「当たり前だよ! これから体育祭のチーム分けが張り出されるんだから!」


「そうなのか?」


「うん! あ、ほら来たよ!」


 星乃が言うと、運営委員らしき人たちが一枚の紙を黒板に張り出した。


「あたし見てくるね!」


 黒板周りに集まるクラスメイトたちの中でさらにもみくちゃにされていく星乃。

 俺とユキにそこへ混ざる勇気は無いので、大人しく待つ。


 しばらくすると星乃が興奮気味に戻ってきた。


「見てきた!」


「どだった?」


「えっとねー、あたしと浅間くんが白軍! それで藤咲さんが紅軍!」


 あっ……。


「藤咲さんだけ別だねー。残念」


「別……? 私だけ、紅軍……。ヒロさんと違うチーム……」


 ヤバい。ユキさんの精神状態が深刻な感じになっている。


「ユ、ユキさん?」


 あんなドヤ顔するから……。というかクラス分けでもう運を使い切ったんじゃないですかね。


「私、体育祭休みます。ヒロさんと一緒じゃないなんて出る意味がありません」


「ええ!? 藤咲さん!?」


「おいユキさすがにそれは……」


 学校行事を休むのはさすがに、家族も心配するだろう。それにお前のお父さんは娘の写真撮るのに命かけてるんだぞ! いやマジで。


 そして一番の問題はユキが休むことによる戦力ダウンだ。体育祭には個人競技もある。

 運動神経が良いユキが休むことは痛手になることもあるだろう。


 一部からはなぜ出ないのかと反感を買う可能性もある。そんなことになって欲しくはなかった。


「雪様! 僕も紅軍です! 共に頑張りましょう!」


「えぇ……」


「すごい嫌そうな顔ぉ!?」


 ユキの目がさらに死んだ。表情も死んだ。

 タイミング悪いとこで出てくんなよ磯貝ぃ……。お前が一緒のチームで喜ぶやつはここにはいない。


「ユキ。ユキさんや。それならこうしよう」


「ヒロさん?」


「勝負だ」


「勝負、ですか?」


「ああ。体育祭で勝った軍に所属していた方が、負けた方に何でもひとつ言うことを聞かせることができる」


「なんでも……」


 よし、食いついた。


「どうだ?」


「やります」


「面白そう! あたしも加わっていいよね?」


「もちろんだ」


「雪様! 僕たち親衛隊が必ずや雪様を勝利に導きます!」


「余計なことはしないでくださいね」


「辛辣ぅ!?」


「あと、ヒロさん」


「ん?」


「私が勝ったらお願いごと、覚悟しておいてくださいね」


 ユキは心から楽しそうに笑った。


 えっ……。俺、何させられんの……?

 やっちまったかなぁ……。怖いなぁ……。


 勢いで何でもなんて言うんじゃなかった。


 負けるわけにいかなくなってしまった。



「ほ、星乃? 星乃は運動とか自信あるか……?」


「ん〜? ある! あるよ! 運動部じゃないけど、女の子にはそう簡単に負けないよ!」


 「藤咲さんにも負けない!」と、そう言ってふんすっと気合を入れる星乃。


「よし、星乃。後は任せた。俺の勝利はお前にかかっている」


「なんで!? 浅間くんも頑張ってよ!」


「俺はセコンドだ。コーチだ。応援役だ」


 すまんが俺は体育祭において無力だ……。だから誰かに頼る他ない。

 2年生女子の種目で星乃がユキに勝ってくれれば勝利に貢献できるのではないだろうか。


 あれ? この条件って俺にとってはほぼ運任せ人任せじゃね?


「まあとにかく、同じ白軍同士頑張ろ〜!」


「お〜」


 俺は星乃のノリに合わせて右手を高く突き上げた。


 俺も少しは頑張るかぁ。

 磯貝たち親衛隊には負けたくないし。

 帰宅部なりの本気を出すとしようじゃないか。


 紅軍側を見ると、ユキが何やら高速でメモを書き、磯貝に渡していた。


「紅軍の小ブタさんたちは今日から体育祭まで、このメニューで身体を鍛えてください」


「かしこまりましたっ! って腕立て伏せ腹筋スクワットそれぞれ1000回ずつぅ!? 無理です雪様!!」


「やってください。あと、白軍の小ブタさんたちは全力で仲間割れを助長し、妨害工作を行ってください」


「そ、それはさすがに僕たちの心象が悪くなるんじゃ……?」


 ユキさんが本気すぎる……。

 俺も筋トレしようかな。1000回とか、無理だけど。やはり親衛隊に負けたくはない。



 こうして、体育祭準備期間の幕が上がった。

 世界の主人公、高校2年生。

 これが青春というやつなんだろうか?


 しかしそれはチームが分かれた俺とユキの、2人の時間が減っていくことを示していた——。




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