第十二章 【ヒビキ】(5/6)

 ホントにここであってるの? くっそ、アベックのヤツ、どんどん先に行っちゃう。やっと追いついた。

(実況中)「いよいよ、ターゲットのいる部屋に進攻です。他の隊員全員が蛭人間にやられた今、私と傭兵ブラザー二人での討伐になります。頼りはブラザーの持つ水平リーベ棒のみ」(少し興奮気味)

 誰得の脚色? 実況観てる人向け? そんな暇あったら状況もう一度確認しよ。


 奥の寝室の前まで来た。ドア開いてるけど中は真っ暗。アベックがハンドライトで照らす。ベッドに誰か座ってる。髪の毛長い女の人? 人?

(実況中)「いました。情報通りです。こちらに気付いているのか、いないのか、ベッドの上でじっとしたまま動きません」(ささやき声)

「怪物め! 覚悟。名刀『火血刀』受けてみよ」

 立ち上がった。見たことあるシルエット。髪が長くてきゃしゃな感じで。こっち来る。足引き摺ってる。知ってる顔だ。どうしてここに広報の人が?

「アベック。待って。この人、ヴァンパイアじゃない」

 うわ! アベックめ、いきなり刀振り回しやがった。ルール決めたけど、分かるだろ。だから、危ないっての。こんの。

「やめろって。あたしだって」

「知ってるよ、ブラザー。悪いが君も死んでもらうから」

「は? ワケ分かんないんだけど」

「そうだよね。でも、目障りなんだってキミのこと」

「誰が!?」

「町長が」

 くっそ罠か。でも、逃げ出さなきゃ。頭使え! 絶対切り抜けてやる。どうする? よし、こいつの後ろのあれから注意をそらさせる。

「実況中にそんなこと言っちゃっていいのかよ」

「それは大丈夫。あとで編集するから」

「ライブじゃないの?」

「バカだな、ライブでなんか流さないよ。ちゃんと運営がチェック入れてくれる」

「お前が不利益だからってどうして運営が編集かける?」

「僕が運営サイドの人間だから、かな」

 廊下の暗闇の奥からウーファーのかかった咆哮が上がった。破壊音とともに悲鳴と叫び声が間断なく続き、そして静かになった。

「今のは?」

「さっきのメタボオヤジが本性現したんだよ。あれの方が妓鬼。あいつらあれにやられて蛭人間になるんだ」

「仲間を売ったんだな」

「はあ? 仲間って、あいつら知り合いですらないよ。そもそもこのミッションは蛭人間補充のためのものだし」

「お前もすぐに同じ目に」

「僕は対象外だよ、運営なんだから。そこになおれ! 外道。って、一度言ってみたかったんだよね」

 なら、せっかく知り合いになったから教えてやる。


アベック後ろ!(無言)


 衝撃波。吹っ飛ばされた。爆発? 痛ったー、背中したたかに打った。ここは? 狭い。天井が見える。ベッドと壁の隙間に落ちたのか。しかし、やばい状況に変わりなし。この後どうする? 強烈なニセアカシアの匂い。雨降る六月の街路のような。怒号のあとの悲鳴。何かをひしぐ音、そして衝突音。わ! 何か降ってきた。生暖かいもの。鉄臭い匂い。そして静寂。引き摺る足音。ベッドのきしむ音。狭間から顔。必殺!正拳水平リーベ棒。って、効かないか。くっそ、あたしの人生これにて終了。

「危ないな、カリン。ウチら友だちだろ」

 よくみるといつもの広報さんの顔だった。

「広報さんが友だち?」

「ツジカワだと言ったら?」

「マジ? すごく痩せたね、キャプテン」

「ほれ、手をかせや」

 ツジカワさんの手、すごく冷たい。

「ずっと気付かなくてごめん」

「いいよ。気付かれないように努力してたから」

 風体変える努力ってどんだけよ。

 立ち上がって部屋を見回すと、壁が突き破られていて隣が見えている。そこに血まみれで誰か倒れてて。あれ、アベックだよね、下半身がどっか行っちゃってるみたいけど。それと廊下の奥からは巨大なものが近付いてくる気配。三社祭の時と同じ腐った菜っ葉の臭い。

「逃げるぞ」

「どうやって?」

「ま、ついてきな」

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