第十二章 【ヒビキ】(4/6)

 改めて見ると、しけたおっさんばっか。エイプ100以外はみんな40? 50? きっとバブルに乗りそこなった口だな。

「作戦中はコードネームで呼び合います。僕、エイプ100はアベック、ココロノハハさんはブラザー、ゴールドモンキーさんはチョリソ、イエロータクトさんはデンタル、VT250Fさんはエリート、MTX50Rさんはフラワー、隊長のモンキーZ50Jさんはグレープ、シンガリをお願いします。作戦中はこのコードネーム以外では絶対に呼びかけないでください。奴らは我々のハンドルネームを知っている可能性があります。ハンドルネームで話しかけられたら、そちらに向かってすぐさま攻撃してください。進攻中の隊列はいつでもこの順番です。アベックからブラザー、ブラザーからチョリソのように下へは話しかけてもよいですが、逆は禁止です。下から話しかけられたときは返事をせずにすぐさまそちらに向かって攻撃してください。返事をしないかぎり向うは攻撃をしてきません。これは暗闇を前提とした作戦です」

「どうして返事をしないと攻撃をしてこないの?」

「礼儀をわきまえているから、らしいです」

 ヴァンパイアって礼儀正しかったんだ? 想像と違うな。

「武器の配備です。さすまたをチョリソとエリートが持ちます。アベックとグレープとが山椒の木刀、アベックは短刀も兼備します。他は各自の武器で対応してください」

 あたしは水平リーベ棒だけで?

「ブラザーは初参戦ですから、まず自分の身を守ることに専念してください。防具はチョリソが用意したものを着けてもらってるね」

 やっぱ、この格好なんだ。すり鉢のヘルメットはいいとして、このガンダムみたいな段ボール製の胸当ては何か意味あんの?

「今回の実況担当はアベックです。規約によりカメラも幹事の僕が身に付けます。では、イベント開始時間まで、各自待機していてください」

 あと、20分か。狩りの場所はこの近くなのかな。

「アベックさん、場所はどこでなんですか?」

「まだわからないよ。それは蛭人間殲滅の時と一緒。時間になったら『R』にプッシュ通知が来て、マップにピンが表示される」

「蛭人間とは違って妓鬼は数が少ないって聞いてます。ほかのPTと鉢合わせになったりしないんですか?」

「それはないと思うよ。表示されたピンを一番近くで拾ったPTに優先権が渡されて、そのPTだけに妓鬼の情報が開示されるから」

「我先にっていうPTはいるんじゃ?」

「そういうのがいたとしても、まったく情報のないまま妓鬼に対峙すれば命ないから」

「それって、どんな情報なんですか?」

「主にダンジョンのマップ。間取りのことね笑。侵入口とか脱出口とか、ターゲットがどこにいるかとか。それから弱点情報。山椒なのか銀なのか。一番重要なのはツレの不在情報かな。人間とはいえツレも妓鬼を守るために色んな攻撃仕掛けてくるからね」

「でも、この間はいないはずのツレがいたんですよね。ガセってことはないんですか?」

「あるかもだけど、運営が流す情報だから信じないわけにいかないよ。そろそろ来るよ。みなさん、スマフォの用意してください」

 あたしのスマフォは『R』入ってないから関係ないけど、一応形だけ用意。

(ピー、ピ、ピー、ピ、ピー、ピピ、ピー、ピピ、ピー、ピピ、ピー、ピ、ピー)

「「「「「来た。ゲットしろ。西廓3丁目に2つ。1丁目に3つ。ひたすらタップだ。だめだ、3丁目二つともとられた。1丁目もあっという間にとられた。2丁目に1つ残ってるぞ。これもだめ。くっそ。このままじゃ強制撤収だ。やった! 取ったよ! でかした、ブラザー。どこ? 本通り交差点の近く。そこ? 意外な場所だな」」」」」

 いつの間にか、あたしのスマフォに『R』が入ってて、あたし宛にプッシュ通知が来るって。いくらなんでもやりすぎなんじゃない? あんた、あたしになにをさせたいの? いや、むしろ氏んで来いなの? ユサ。


 皆さん、ハーハーって息切れして大丈夫ですか? さっきから「肺が肺が」とか「腰痛い」とか「膝の爆弾が」とかって、それならバイク置いて来ればいいのに。音しないようにってわざわざ押して来て、みなさん年考えよ。さ、もうすぐ着きますよ。あと少し頑張りましょう。ったく。なんであたしはいっつも介護担当なんだろ。

 やっと着いたよ。先に着いてたアベックさん、イラついてる?

「これから妓鬼の屋敷に侵入します。各自生還を第一に、慎重な行動を心がけてください。蛮勇は禁物です。スレイヤー」

「「「「「「スレイヤー」」」」」」(小声)

 いつから辻沢は玄関にカギを掛けない町になったんだ? 手をノブに掛けたらすっと開くってどういうこと?

(実況中)「我々は長坂モンキーズ隊です。前の作戦で欠員が生じたため傭兵ブラザーを補充し、7人構成で進攻します。場所は本通り5丁目の閑静な住宅地。妓鬼生息域と言われる西廓・広小路地域から徒歩で15分かかりました」(ささやき声)

「あと30分しか時間がない。迅速にターゲットを目指そう」(前からささやき声)

「(前略)目指そう」(後ろ向きにささやき声)

(以下、フラワーまでくり返し)

土足で失礼します。お約束で、

「誰かいますかー?」(後ろ向きにささやき声)

(以下、フラワーまでくり返し)

「しー」(前からささやき声)

「しー」(後ろ向きにささやき声)

(以下、フラワーまでくり返し)

 めんどくさいな、このシステム。

(実況中)「我々のターゲットは、蛭人間型ヴァンパイアで弱点は銀。水平リーベ棒が有効。山椒の木刀は役に立ちません。ツレは運営の陽動作戦で外出中。ただし移動でロスしたため、30分の猶予しかない」(ささやき声)

 さっき見たダンジョン図では、この廊下をまっすぐ行って、3つ目の左の寝室にターゲットだった。

(実況中)「紫外線灯にぼんやりと浮かぶ廊下は、一般の住宅と変わりありませんが、どことはなしに陰惨な匂いがしています」(ささやき声)

 こんなに、ぞろぞろ行って気付かれてないってのが楽観的すぎるんじゃないかと思うけど、一人よりは心強いってことで。

((ヒビキちゃん。アタシたちは、友だちだろ?))(重低音)

 名前、呼ばれた。

(実況中)「ちょっと待って。なぜだ。ハンドルネームでなく、名前を呼ばれた。隊員も同様のよう。みんな平常心を保ってください。うろたえないで」(うわずった声)

 みんな、パニクってる。心づもり出来てなかったから無理もないけど、ガマン。すぐそばにいるのが分かる。気配と息遣い。怖い。でも、進め! とにかく前進。

「チョリソ! 3時方向にさすまた!」

「くらえ! よーし何か押さえた」

「エリート! 2時方向にさすまた! フラワー、チョリソを助勢! グレープ、一撃お願い!」

 ゴ!

「手ごたえあり!」

 アベック、ナイスアタック。まぶし! 何? ハンドライトか。この人誰?

絡め捕ったのはどこにでもいそうなメタボおやじだった。

「な、なんだ、あんたたちは。人の家に勝手にあがりこんで」

 やたら蛭人間に似てるけど、どう見ても人間。前に会ったことある?

「こいつはツレだ。妓鬼じゃない」

 ツレは外出中なんじゃ。またガセ掴まされた? そうでなければあたしたち普通に不法侵入。

「前回同様、情報が錯綜しているみたいだ。僕は奥を確認しに行く。チェリソ以下はこいつを頼む。ブラザーは僕と一緒に来て。水平リーベ棒あるよね」

 ここに5人もいらないでしょ。あと1人か2人一緒に行ってもよくない? 

あ、そう。あんたたちいい年して年下の言いなりなんだ。

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