第七章 【ヒビキ】(2/2)

 志野婦神社の神輿完成報告して社長によろこんでもらうはずが、あたしが余計なこと言ったせいで、社長室の温度、2度くらい下がった感じ。

「ヒビキ、あんた何言ってるの? 宮大工が一生懸命仕事するのは当たり前、納期までに完璧に仕上げるのは当たり前。違うか?」

「そうです」

「なら、どうしてご祝儀をはずまなきゃならない? わが社は仕事に見合った金を払ってないとでも?」

「いいえ。十分払ってます」

「あまいぞ、ヒビキ。、仲良しごっこが懐かしくなったか?」

 ユサのこと? ひさごのことまで知ってる? まさかね。

「すみません」

「どうせ、現場に言っちまったんだろ」

「いいえ、それはしてません。社長に相談してからと」

 今のは、ほんの軽口のつもりですし。

「まあ、いいよ。とにかくおまえがやってるのは、ビジネスだ。金儲け。わかった?」

「わかりました」

「わかったら、行っていいよ」

「しつれいします」

 何年ぶりだろ怒られたの。


 社長室出たらカワイがすり寄ってきた。

「ねーさん。めずらしいですね。社長、昨日からナンカ機嫌悪いみたいっすよ。御神輿見に行ったらしいんすよ、できあがったの。それ見て怒ったんじゃないっすかね。だからあんだけ僕がチ〇コはまずいって……」

 まとわりつくなよ。一人にしてくれねーかな。そっだ、厚生室行こう。なるほど、こういう時こうやってあの部屋が呼ぶんだ。知らなかったよ。あった、バランスボール。紫の復活してる。こっちは北村シニアマネ専用だから、あたしは黄緑のにしよー。ぶーらぶーら。ケツがこそばゆい。これ、本当に心の水平リーベ棒になるのかな。もちょっと、やっててみるか。そっだ、お師匠さんのベンベン節聞きながらやってみよう。

〈ビエン、ビエン。なげきのむちもあにぇはなおー、ビエン。いもとがしぇなを、ビ、なで、ビ、おろしー、ビエン、おーお、そなやにおもやるももっとも。しかし。そなたがちちははに、なごおそやったみのかほおー。これこのあねをみやいのおー……〉

やっぱ癒される、お師匠さんのベンベン節。


 社長が御神輿の製作現場を見に来てくれてたのは知ってたから、いの一番に完成の報告しに行ったらあれだもの。軽いノリで言っただけなのにマジにとられて、ちょっとびっくりした。あ、北村シニアマネ。なんですか? え?

「ご同輩。きみもやられたのかい?」

 そうか、この人の良いところはこういう気配りなのかもな。

「はい、やられました」

「辛いだろー」

「ケッコー辛らいです」

「そうだよね。痛いけど、こいつに座って圧を掛けると引っ込むんだ、不思議と」

「イタミガヒッコム?」

「こう中に」

 ナンノハナシデスカ?(目が点)

「痔なんだろ?」(ささやき声)

「ちげーし!」(大音声)

「はははは。照れるなョ。同病相哀れむだ」

「だから、違いますって」

 なんでもないって。みんなで覗きに来なくていーから。しっし、カワイ、そいつらあっち連れてけ。吉田ディレクタまで、うれしそーな顔して。


 なんとか説明して、北村シニアマネに分かってもらった。

「すまなかったね。いやー、勘違い。ここに座るのはみんなそーなのかと思ってしまって」

 そんなのは、北村シニアマネだけでしょう。バランスボール、座りたくなくなった。

「なに聴いてたの?」

 これですか?

「三味線の音がもれてたから」

 スピーカーON。

「あれ? 片っ方のイヤホン、渡して聞かせてくれないの? よく公園のベンチで恋人同士がやってるじゃない」

 どうしてあんたと恋人同士みたいなことしなきゃならない? 変な親近感持ってもらっちゃ困るんだよ。ぢー仲間じゃないからな。

「これ、宮司の奥さんの声に似てるな。三味線も?」

 北村シニアマネお知り合いなんですか? 実は、役場のカルチャーで……。

「やっぱりそうなんだ。懐かしいな。あの時、千福オーナーのところで宮司の奥さんにもお稽古つけてもらった」

「二人だけかと」

「千福オーナー三味線弾けないからね」

 そうなんだ。

「宮司の奥さんも美しい人でね。お姉さんだけあって」

「え? お姉さんなんですか?」

「そうだよ。双子のね。美しいと思わないかい?」

 それは認めます。物腰がおちついているからそれなりのお年だとは思うけど、

「20代に見えるくらい若々しいです」

 大げさなようだけど、実際あたしとタメに見えることある。

「そう、僕の時も20代に見えたけど。美人は年を取らないものなんだね」

 20年前から年を取らない?

「あの頃は、二人は仲睦まじくてね。まるで恋人同士のようだったんだよ」

 まるで恋人同士。

「ひょっとしてですけど、お師匠さんて千福オーナーのこと人に話すとき」

って言うよ。弟だけどまるで彼氏みたいにね」

「じゃあ、志野婦神社の土地の所有者って、千福オーナー?」

「そうだよ。以前はもっとあったが今はあそこだけだよ」

 お師匠さんのターゲット間違ってた。宮司さんでなくって、千福オーナーだった。

なら、あの人がしてる危ない遊びって何なの?





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