第六章 【レイカ】(4/4)

 ウチはセイラの本棚物色。うーん、ブンガクな本ばっかり。ダザイオサム。ニンゲンシカクの人。サカグチヤスゴ? 誰だっけ。サクラノシタとかの人か。ナカジマアツシ。おー、サンゲツキの人。高二の現代文で冒頭の文章を暗記させられた。「ロウセイノリチョーハハクガクサイエー、テンポーノマツネン、ワカクシテナヲコボーニツラネ、ツイデコウナンイニホセラレタガ、セイ、ケンカイ、ミズカラタノムトコロスコブルアツク、センリニアマンズルヲイサギヨシトシナカッタ」。覚えてるねー。この人発狂して虎になっちゃうんだけど、それが妙にリアルでみんなすごく真剣に授業受けてたよね。


 ウチはしばらくの間はうとうとしながら、カリンとセイラがゲームしてるのを遠くのほうの出来事みたいに感じてた。ときどき、

「すごい。カーミラ・アシュ、カイ・ドラキュラ、一撃」

 とか、

「こんなに早くメアリー・シェリーにたどり着くって」

 とか、

「黒幕はバイロン卿だと思ってたのに」

「どうしてここで、ポリドリ?」

 って、気になる名前が聞こえてた。トム・ホランドの『真紅の呪縛』面白かったな。パパの本棚にあったヴァンパイア小説で3番目くらいに。


 なんて考えてたらウチはいつの間にか寝落ちしちゃってて、カリンが、

「よっし裏ゲーム、ゲットー! 『スレイヤー・R』」

 って叫んで、ビックリして起きた。いま何時ですかね。お日様出てますね。

「3時間でクリアだって。さすがチート・モード」

「『スレイヤー・R』はどんな感じ? カリン」

「位置ゲーみたいだけど」

「カリン見て。この地図、どこか分からないように省略してあるけど、位置許可してやると、ホラ、この地形、青物市場っぽい」

「フィールドロケーションは辻沢なんだ」

「辻沢で何をするゲームだと思う? モンスター集めて回るとか?」

「まさか。モーケモンGOじゃないよ」

 お二人さん、ウチには分からない世界の住人になってる。このままゲームをやり続けるって言うけど、ウチそろそろ。

「どうしたの? 用事?」

「ううん。PK」

「なにそれ」

「パンツ変えたい」

「「レイカー」」

 そのベロ出しリアクションは女バスのころと変わんないね。

「分かった。いったん帰ってPKしてからすぐセイラんち来てくれる?」

 なんで?

「レイカの仕事って」

「月曜の夕方までないけど」

「いいね。セイラたちも月曜日休みだから、今日からここを拠点に一泊二日のスレイヤー合宿しない?」

 それって、小学生のボーズどものすることじゃ? ウチらオトナの女の子だよお。カリンだって嫌だよね。

「いいよ」

 いいの? マジで?

「レイカは? レイカのスマフォいるんだけど、セイラたち」

「ゲームで時間潰すのは、ちょっと」

「えー、それはないよ。レイカ」

「レイカの言う通りだよ」

「でも」

「迷惑だよ、これ以上は」

 分かってくれてありがと。カリン。

「なら、あと15分だけスマフォ貸して。たしか、『スレイヤー・R』からスレッターのアカウントが取れるはずだから」

「スレッター?」

「『スレイヤー・R』ユーザ専用SNSがあるんだよね」

 何の事だかぜんぜん分かんないけど、どーぞ。


 帰りはカリンとバス停まで一緒。カリンとは反対方向だから、ここでバイバイ。

「びっくりした? ゲームなんかに夢中になってて」

 しないよ。ちょっと疲れただけ。あ、ウチのバス来た。

「広小路三丁目まで」

 ゴリゴリーン。

「レイカ。ゲームはね」

 なに? カリン。今、窓開けるから。

「ココロとシオネのため……」

 風吹いてホコリ入ってきたから窓閉めた。

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