第六章 【レイカ】(3/4)
ちょっと歩いて横道に入ったらセイラのマンションに着いた。わー、セイラんち立派。ここに住んでるの? 一人で? やばくね。
「実家は隣の駅だから今の仕事、通えないわけじゃないけど、ずっと一人暮らしがしたかったから」
夢がかなったってわけか。うらやましいよ。
玄関前まで来てセイラが、
「ちょっと待っててね」
これは急にお友だち来た時のお約束。今部屋の中でいっそいで脱ぎっぱなしの服とか、見られちゃまずいコスメグッズとか押し入れに放り込んでるところ。でも、ちょっと時間かかり過ぎ。ひょっとしてセイラの部屋って、汚部屋?
「どうぞー」
「「おじゃましまーす」」
わー、エスニックでスパイシーな香りする。お香焚いてるんだ。さすがセイラお洒落さんだね。でもちょっと強すぎ。くっしゃん。ティッシュ貸してくれる? ありがと。
女バスのフォトスタンドある。新人戦の時の集合写真だね。ウチらの代は全員で撮った写真が少ないよね。ホントなら引退とか卒業の時とかあるんだろうけど……。この壁のパネルはシオネの写真だ。てか、よく撮ったねー、ダンクの決定的瞬間。誰が撮ったのかな。そっか、セイラ、このころ体調崩しててベンチ外だった。いいアングル。迫力満点だ。こんないい写真なのに卒アル用に提出しなかったんだ。ウチ、はじめて見るもん。
お言葉に甘えてお風呂借りちゃった。ちょっとズーズーしかったかな。湯船つかるの気持ちいい。いまさらだけど、ウチも、お風呂がおトイレと別になってるのがよかったな。ウチが街で住んでたワンルームは、狭いところに全部押し込んだ感じだったんだよね。なんせ、ウチは高校卒業してすぐの引っ越しだったから、家探すのも、会社に通いやすいとか、買い物に便利とか、間取りのことさえ一切考えずに、見つかったのにすぐ決めちゃったからね。ゆっくり決めればもっと安くていい物件がたくさんあったのにだよ。なんだったんだろ、あのころのウチ。なんか、卒業式のあとは家を出るときのママの顔しか記憶になくって、気付いたらユメカの横で仕事してたって感じだった。極端なハナシ。しばらくは色んな事頭になくって、女バスの子たちのことまで忘れちゃってた。とにかく忙しかったんだろーな。社会に出るってこういうことかーって、後になって思ったけどね。
「ありがとー。気持ちよかったー。バスケのボールケース、浴室乾燥のバーにかけてあったから、洗濯機の上に置いて入った。いまもバスケしてるんだ」
なんかうれしい。セイラ、女バスのこと忘れないでいてくれてる感じする。
「え? あーたまにね。それより、お腹すかない? 夜食でも買いに行って来れば?」
ウチは、あんまり空いてないです。
コンビニで買って来たおべんとー、カリンもセイラもすごい食べるの。ビックリしちゃった。ブタ丼にカルビ焼肉丼、それにおつまみのタン塩乗っけて食べてる。カリンは平気な顔してるけど、セイラ、なんか無理してない。あんたもとは小食だったじゃない。
食べ終わったら、またゲームの話。カリン、変わっちゃったな。ゲームとか関心ない子だったのに。ウチ、いいやってセイラのベッドで横になってたら、
「レイカ。レイカもこのゲーム、インストールしてくれないかな。基本タダだから、いいよね」
インストールしてもウチはゲームやらないと思うけどセイラがそう言うなら。
「いいよ」
「ありがと。少しでも人手があった方が、レアアイテム手に入る確率上がるから」
ゲームやらないウチがアイテム手に入れるって、イミフなんだけど。
「スマフォ、カバンかな」
「うん、脇のポケットにない?」
また、どっか置いてきた?
「あった。ごめんね。パスは。おっと、入れた。コーコーの時のまんまじゃない。アブないなー。変えよ、コマメに」
女バスのころ、よくセイラにスマフォ見てもらったっけ。写真アプリの設定分かんなくなった時とか。ついでにいらないアプリ削除してくれないかな。
「まさか、IDのパスも? れいか・あんすこ・せいねんがっぴっと。あちゃー。認証されちゃった。これを、こうして、ここにアクセスしてっと。あれ、でもインストできない。既にインストールしてあるって出る」
身ニオボエナシ。
「ちょっと設定覗くよ」
どぞ。
「制限とかかかってないみたいだし。インストール済みアプリはっと。あるね。『スレイヤー・V』。入ってるな。どこにあるんだろ。レイカ。グループの中身、みていい?」
「全然オッケーです」
それより、そろそろ寝ていい?
「あった、ここにある。『クソアプリ』グループ。これ、いついれたの?」
身ニオボエナイ。
「開けてみてよ」
やだな。
「セイラが開けて」
ブンバブンバ、ブンバブンバ、ブンバブンバ、バッバラバー、バラバー。ピポーン。
明るい音楽だね。どーでもいいけど。
「なんだ、これ。コレクトアイテム数、異様に多い」
「レベル665だって」
「ウチらでさえ300越えしたばっかなのに」
「HPとか、MPとかも全部限りなくMAXに近い。レイカ。やってたんでしょ?」
「なんのこと? ウチ、知らない」
「本当? レイカ、ウソついてないか?」
なんでウソつく必要がある?
「まってカリン。これってチート・モードなんじゃない。だって、プレイ時間が1時間切ってる」
「ほんとだ。やっぱりチート・モードってあったんだ」
「チート・モード?」
「ゲームの裏技で、プレーヤーが無敵とか、アイテム全部持ってたりとかの状態にすること。知ってるでしょ」
それ、うれしいの? ウチのこと、寝かせてくれないかな。
「レイカ。どうしたらチート・モードになるの?」
「しらないよ、ウチ。ホントに何にも」
気まずい空気。セイラのいらいらが見える。
「いいよ。この環境でクリアさせてもらおう」
「そうだね。レイカ。これセイラたちにプレイさせてくれないかな」
どーぞ(無声)。
「ありがと」
「すごい。なんでもありそう」
「あった。『ノスフェラトゥーの鍵』。三つもある」
「ホント? あんなに課金してセイラは一つもとれなかったのに」
「おかげで『名曳の涙』とか『レジェンド・クロス』ゲットしたじゃない」
「そーだね。『レジェンド・クロス』で、『スレイヤー・R』の存在知ったんだったね」
「『ノスフェラトゥーの鍵』が三つということは、使う所が三か所あるんじゃ」
「まだ一か所しか見つけてない」
「これはちょっと本腰いれないと」
「あのー」
「あ、ゴメンね。レイカ。課金するときは起こすから、寝てていいよ」
課金するのは決定なのね。
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