第四章 【レイカ】(5/8)

 今夜も暇な窓口。雨、降りそーにないね。

「アメが降るー、アナタは来ないー」だれだっけこの歌口ずさんでたの。うわ! ブチョーのササマダラだ。やだやだ。思い出したくもない。

 しかし、このノボリ目障りだわ。わざわざミニのまで作ってさ。「ゴマスリで町おこし!」(ミニ声)。やっぱヘン。この町は誰にヘツラッてんの?


 そーいえば、来るとき、三宅酒店の角でお葬式やってたな。こんな時間なら通夜じゃね? って思うけど、この町、なんでかお葬式、夜やるんだよね。本式でない仮のお葬式の「影隠し」っていうので出すことが多いからかもだけど。ま、例のシキタリってやつだね、きっと。

 それで思い出した。前園さんのオバサンがいつか言ってたことがあって、お葬式って必ず三つ続くもんなんだって。小島さんのお母さん亡くなった時は、そのあとホントに二つ続いたんだよね。宮崎さんとこのオバーさんと、暮山さんの娘さん。あるのかねそーいうの。ママのお葬式の時も、「これで二つ目ね。この間、三輪さんの奥様が亡くなられてー」、なんて死神みたいな(オバサンごめんね)こと言ってたっけ。前園のオバサンはなんでも知ってるから、すっごく頼りになるけど、ある意味怖い存在だよ。てか、あと二つお葬式あるかも。


 へー、ここの天井ガラス張りなんだね。気付かなかったや。昼間とかめっちゃ熱くなりそう。設計した人、何考えてんだろ。あ、動いた。何だろ。ガラスになんかが張り付いてる。暗いからよくわかんないけど。ケッコーおっきいから、うーん。カブトムシかな。手足があるみたいだから、ヤモリかも。あ、もう一匹いる。なんか絡み合ってる。アラー、お盛んですねー、小動物さんたち。それに比べてウチなんぞは、彼氏いない歴、イコール年齢だもの。ショボン。今何時? スマフォどこだっけ。カバンの中だった。まーた、モー。このスマフォ、反応ワルスギ。そろそろ寿命? コイツメ! コノ! コノ!。やっと反応した。二時半。まだまだ明けない夜明け。小動物さんたちは? あれ、一匹いなくなった。ブーンって飛んでったんだね。やっぱカブトムシだったんだ。

「アヴェックでランデヴューか。羨ましい」

 ヴの発音、よだれでべちょべちょになるから嫌い。バ・ビ・ブでよくない?

てか、いま誰言った? アヴェックもランデヴューもそんな言葉ウチ知らんけども。

 あれ、ガラス天井のずっと上は、円盤じゃん。落っこちてきそーだな。銀色しててホント飛んでいきそーな感じだよ。ぜってー町長脱出用の操縦室とかあるね。 

 今、突然あそこ行ってみたくなった。そうすっと西棟か東棟を昇らなきゃいけないよね。ミワちゃんにはきつく言われてるけど、少女よ大志をいたけ! だよ。クラーク博士って何した人だっけ。「水平リーベ棒」発明した人だ。おー、今日のレイカちゃん冴えてるね。どうやって円盤まで行こうかな。


 エレベーターはもう停まっちゃってるし。西棟の階段は外から入るのか。東棟の階段は中からだから、こっちから昇ってみよ。ぎ、ぎぎー。何か臭いね。生臭いっていうか、おえ、吐きそうになる。鼻摘まんでいこう。かつーん、かつーん、かつーん、かつーん、かつーん。ぎ、ぎぎー(効果音サービス)。疲れた。かなり昇ってきたな。足パンパンだよ。ここが最上階? 高い。めっちゃ気持ちいー。遠くに街の灯が見える。ウチが三年過ごしたN市かな。ホントにクローしたよ。結局彼氏の一人もできなかったし。


 ウチがいた会社、ブラックとか言ちゃったけど、確かにサービス残業とかあったよ。けどちゃんとしたトコだった。セク原みたいのはホントに珍しくって、それなりに女の子をソンチョーしてくれるところだった。プロジェクトっていうのにも、君たちも戦力だからってユメカと一緒に参加させてくれたり。ウチら頑張った。朝夕2回のなっがーい会議とか毎回出席したし(今レジュメ、何目ですか? のレイカちゃん笑)、何十部っていうレジュメ作るの手伝ったし(2ホチキスのレイカちゃん)、みんなの夜食、遠くのコンビニまで買い出しに行ったし(8コンビニのレイカちゃん)、ビックヤマダセンターにコピー用紙買いに走ったし(用紙達のレイカちゃん)。チョーじゃねーし、シラベだし。

 そのプロジェクトの打ち上げで、社長賞とかもらったのは、やっぱ中心の男の人たちだけだったけど、最後に、プロマネのササマダラ、じゃなかった、プロジェクト・マネージャーの笹部長から、今回の真の功労者はここにいる女の子たちですって言われて、みんなから拍手されて、頑張ってよかったねって、ユメカは喜んでたけど。

……結局、女の子呼ばわりかよ。


 そんで、飲み会の席とか男子だけであつまる場所では、ユメカとウチのことを爆貧問題(胸の大きさを漫才の爆笑問題にかけてるんだよ。バカでしょ)って陰口たたいてるの知って、怒りをトーリこして、すごくさびしい気持ちになった。その中にはちょっといいなって思ってた子もいて……。おんなじチームで働いてるのに、人のことそんなふうに言うのってどうかしてるって思わない? 女バスなら絶対ありえないもん。……してたか、ウチらも。 


 キツリツしてるな、この庁舎。周りにこんなに高いのまずないよ。あっち駅前かな。ボコーはどこかな。暗くて分かんないや。うわっ、足の下円盤だ。ぶら下がってるよ。こっちの方が高い感じなんだ。こうやってみると、でかいな。どこかな操縦席。あの前の方とか、いかにもって感じ。ん? 円盤の中でナンカ動いた。ちょっと、行ってみよーかな。って、しませーん。ぜってー危ないって。死亡フラグめっちゃ立ってるもん。中に入ったら、ホッケーの仮面被って、手にすんごい長い鉄の爪つけて、チェーン・ソー振り回してるやつが襲って来るから。さっさと戻ろ。あれ、開かない。非常階段鍵かかってる。中から開かないって、フツー逆だろ。何か挟んどけばよかった。コーカイしかない。しかたないな。西棟の非常階段から回ってみよう。


 よかった。こっちは開くよ。う! 何このニオイ。古い倉庫の一番奥の濡れ段ボールが腐ったような。床もヌルヌルしててキモイし。人がいる。それもたくさん。階段に並んでる。こっち見た。例の偉い人たちみたいだけど何か変。みんな同じようにメタボバラに髪の毛少ない。あっちの人セーラー服着てるし。え、おじさんだよね。こっち来る、ワラワラと。これやばいやつだ。逃げよう。入った扉締まりそうになってる。ダッシュ!ギリセーフ、出れた。でも、締められない。何で? 向うからすごい力で押してるんだ。ダメ。耐えらんない。逃げなきゃ。追いかけてくるよ。わ! 反対側にも同じようなやつがいる。このままじゃ挟まれる。どっか隠れるところ! あそこに部屋が。扉開いてますように。

 入れた。ドア閉めれた。あの人たちなんなの? みんなフィットネスボールから頭と手足出したみたいな体形して。もう追って来ないみたいだけど。でも静かになるまで待とう。


 静かになったみたい。てか、何だろこの部屋。制服がいっぱい陳列してある。女子のものばっかだな。ん? この制服のDJって袖の刺繍、なんか見たことあるな。三つ葉のマークのも、これ東京の有名女子高のじゃね? かわいい。ヒナゲシの花のエンブレムって、これ成女工のだ。こっちはウチのコーコーの。夏冬ある。青洲女学館のまで。なんだろ制服ミュージアムかなんかかな。でなかったらセーフクオタのコレクションルーム?

 しかし、やたらムーディな部屋。ジュータンふっかふかだし。ソファーもなんか、ベッドみたい。天井ミラー張りって、ここはラブホか? ウチ、ラブホ行ったことないから知らないけど。

 棚に木刀が置いてある。ライトアップして。この木刀真っ黒。ちょ、ちょっとだけ持ってみよう。わっ! なんかしびれた。これはエグイほうの武器だね。触っちゃダメなやつー、ってね。

 正面の机の後ろに見覚えのある代紋が。辻の字に木ノ芽と山椒の実六つ。なんだ町のマークか。ひょっとして、ここは。

 しかし仰々しい机だな。おっきすぎるよ。椅子でっか。名札があるね。ひっくりかえってる。どれどれ。えっとー、「辻川町長」! やっば、ここ町長室? ウチの上長の上長の上長の上長の上長くらい上長の部屋なの? はやく出、って痛ったー。今ゴツンて。何すんの? 頭なぐったの誰よ。コートー部をシタタカニ。血が出てるよ。ゴツ! 痛ったー、また……。

「十二時以降は入室禁止だ。トリセツ読めや。ん? なんだ? あ、お前は!」

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