第四章 【レイカ】(4/8)

 さあ、登庁の時間です。空、曇ってるな。天気予報でこれから雨って言ってたから傘持ってこう。

「行って来まーす」

「行ってらっしゃいませ」

 なんか変な感じ。ガッコー行ってた頃みたい。あ、前園のオジサンだ。喪服来てどうしたんだろ?

「こんにちは」

「やあ、レイカちゃん」

「あのー」

「この格好かい? ヘイゾーが死んじゃってね。ペットの葬儀屋やら役場やら行って来た帰りさ」

「そうなんですか。病気だったんですか?」

「いいや、老衰だってさ。ここんとこずっと寝たきりだったんだよね」

 どうりでウチが帰った時吠えてくれなかったんだ。

「残念ですね」

「ああ本当に。レイカちゃんもヘーゾウと仲良くしてくれてありがとね」

「いえ」

「じゃ」

 オジサン泣いてた? 無理もないよ、15年も一緒だったんだから。サビシイヨ。へーちゃん。


 バスやっと来た。

ゴリゴリーン。

「役場まで」

 町の経済にコーケンするため、チャリ通やめてバス通にした。おっとあの二人、桃李女子高だ。紺の紐リボンとくるみボタンの丸エリ白ブレザーに長めの紺のスカート。腕にスモモの木のワッペン。「トーリ、モモイラザレバ」だっけ。なんでかトーリくんにモモが嫌われちゃってるヤツ。辻沢から通ってる子いるんだね。誇らしくもある。今年は東大京大に何人行ったのかな。見た目もどこか知的な感じする。でもおねーさん一言だけ言うね。引っ張ると埃の線になるから、その白い靴下はピシッと履こ(無言)。


「でね、あたしの姪っ子、双子なんだけど、まだ4才なの」

「お、可愛い盛り」

「そーなぬおー。めっちゃかわいいぬおー。二人ともほっぺがぷよぷよでー」

「そーか、かわいいのか。そのかわいいのがどした?」

「あ、そうそう。伯母さんが古い家の出だとかで、あんなちっさいのに、乳歯、わざと折っちゃったんだよ。二人とも。かわいそくない?」

「おー、かわいそーだ。で、なんで?」

「女の双子だからヴァンパイアにならないようにだって。バカげてるでしょ」

「へー、いまだにあるんだ。その割礼みたいな辻沢のフーシュー」

「え? マナミ、知ってるの?」

「知ってるよ。上の犬歯一本でしょ。あたしも折られたもん」

「えーーーーーーーーーーー。あ、すみません。すみません」

 まわり全部に謝ってるよ。

「うそ」(ささやき声)

「本当。双子だからさ」(ささやき声)

「そーなんだー。痛かった?」(ささやき声)


 すっごく痛かったー。ウチなんてー、上下の犬歯全部だったからー。



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