第三章 【ヒビキ】(2/4)

 会長周辺を探ろうって思って、本社の威光を傘に子会社のYSS(ヤオマン・システム・ソフトウエア)にアポとった。そしたらここから青物市場ぐらいの距離、自分の車で行くってのに会長みずから迎えに来るって。だからこうやってカイシャの玄関でお待ち申し上げてるんだけど。

 

 来たみたい、スポーツカーグリーンのジャガー。驚いた4時ピッタリだよ。

「お待たせ。乗って」

 この車、後ろに乗るのは初めて。いちいちシガーソケットにスマフォ繋げんのは変わってないね、会長。

「こうやって、ヒビキちゃんのことお迎えに上がるのは3年ぶりかな」

 あたしがヤオマングループに入社してから今の部署に異動になるまでの半年、会長と秘書待遇のあたしと二人しかいない、めっちゃくちゃ暇な部署にいた。それでか、いらないってのに毎日このジャガーで送り迎えされてた。

「すみません、わざわざジャガーでお出迎え頂かなくても、私の軽自動車で伺いましたのに」

「いやいや、本社の方が、うちなんぞのプロダクトにご興味を持ってもらえたんだから、こっちからお出迎えするのはあたりまえの……」

 ちょっとややこしいけど、このカスはヤオマン本社の会長と子会社のYSS社長を兼任してる。ちなみに女傑の社長は本社社長でヤオマングループの総帥。

「……ヒビキ、さん」

 で、ユサ。どうしてお前が助手席座ってんの?

「ユサちゃんね、ヒビキくんと知り合いだって言うからさ、付いてきてもらったのよ」

「女バスで、ね」

 ね、じゃねーよ。どうして床にバスケのボールケース転がしてあるんだって思ったら、お前か。

「睨まないでよー。ヒビキくんは相変わらず怖い怖い」

 なに薬指立ててやがる。こんどは食いちぎってやろうか? このセクハラおやじ。

「カイチョ」

「めんご、めんご。今日はユサちゃんに任せるんだった、ヒビキくんの運転は」

 あんだと? こら。しばくぞ二人まとめて。


 今はYSSの青物市場の旧本社ビル、3ヵ月ぶりだな。駐車場せっま。もともと狭い駐車場だったけど仮設の物置小屋に占領されて、社長のジャガーともう一台のマイバッハは伊礼バイプレのか、の専用駐車場。

 ビルの中懐かしーって思ったら、何だこのオタクの巣窟みたいな廊下は。アニメキャラのポスターばっかり。これがヒットとってる『スレイヤー・V』のビジュアルなんだ。全世界1億2500万ダウンロード突破ね。ゲームしないからそのすごさが分からないけど、会長のハナ息からかすると、かなりなんだろう。ま、指揮取ってるのが伊礼バイプレだからやれてるんだろうけど。

「ニョーボーも、ようやくダウンロードしたそうだよ。ザマミロだ」

 ニョーボーって、社長が一番嫌いな呼び方。

「ヒビキくん、この部屋で待ってて。開発の連中呼んでくるから。ユサちゃんもいてくれる?」

「わかりましたー。カイチョーは同席されますか?」

「いいや。例の頼まれごと済ませて、終わったころ戻ってくるよ。じゃあね」

「お願いしまーす」


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