四 神の子

 施設の中を歩き始めて十数分、筑波は突き当たりの部屋の前で止まった。


 上部にある監視カメラのようなモノに筑波がカードキーをかざすと、赤い光がカードに向かって伸び、それに合わせて地面が無音で動き地下への階段が現れる。


「驚いたでしょ。この部屋はフェイクだよ」


「こんな仕掛けは空想上のものだと思っていました」


 筑波は同意するように笑う。


「それだけこの場所は重要だからね」


 そう言って筑波は階段を下り始めた。そして階段の途中で止まり振り返ると手招きをする。


 白馬は不安を感じながらも、階段を下りることにした。


 道の先には一つの部屋があり、医療施設のような真っ白い部屋に辿り着いた。


「ここだよ」


「何だか画期的な機械ですね」


 これが運命力鑑定機?古代遺跡から掘り起こしたとは思えない、とても現代的な装置が目の前にある。


「白馬君、そこに横になってこれを腕と頭に装着してくれますか?」


 筑波はキャップとバンドを手渡し、白馬は言われた通りベッドに横になり腕と頭に装着する。


「ちょっと待ってね、すぐ終わるから」


 筑波は運命力鑑定機にケーブルで繋がったパソコンを起動させた。すると部屋全体が光り出す。


 筑波からは驚きの言葉が漏れた。


「おや?この数値は!やはり白馬君、君はすぐにボスに会わなければならない」


「どうしたんですか?」


「何というかね、君の運命力が異常に高いんだ。君の能力については 剛力 嗅覚 並行思考 疾走 脱兎 ?? そして称号は逆転劇」


「えっ!?僕は無能じゃないんですか?」


「うん、君が神の子である事は間違いない。もしかしたら、君が鍵の可能性がある?」


「鍵?」


「それについてはまた後で。今は急いでボスの所へ行こう」


 筑波は口元を緩ませながら、白馬の手を引いた。


「やっとだ。やっと見つけたのかもしれない」


 筑波は何やら独り言をぶつぶつ言っている。


 白馬は自分の能力が無能ではないことに興奮しているため、筑波の独り言には気づかない。


 歩き始めて十四分ほどで目の前の大きな扉に辿り着く。白馬は緊張と胸の高鳴りを抑えられなかった。


「ボス、起きてますか?新人連れてきましたよ。ボス?」


 筑波はドアをノックするが反応は返ってこない。


「ボス、開けますよ」


 断りを入れて開けた先には、僕より一、二歳年上の美しい芸術品のような女の子が裸で寝ていた。


 透き通るように白く、赤子のような弾力があり、瑞々しいハリのある肌。


 汗ばんだ肢体に艶やかな双丘、キュッと引き締まった形のよい臀部。


 直視してしまった筑波と白馬は鼻血を出して倒れる。


 そこにたまたま一人の女性が通りかかった。


「あらあら、また裸でお昼寝ですか!はしたないから止めてくださいと言っているのに」


「ボス起きて下さい。ボース」


「ぐーぐー、すやすや、むにゃむにゃ、ペロペロ」


 何か舐めていませんでした?


 んー、気のせいのようですね。まあ、いっか。


 今はそれよりも。


「起きないと、ボスの冷蔵庫の炭酸いちごミルク飲みますよ」


 女性の言葉に反応してガバッと起きたボスと呼ばれる美少女は、凄い剣幕で睨み付ける。


「私の炭酸いちごミルクを飲むと殺すぞ」


「おはようございます、ボス」


「誰かと思えばハルか、何だそのガキは?」


「例のThree faces bearを倒した子のようです?」


「何故、鼻血を出して倒れている?」


「思春期ですから。ボス、早く服を着てください、はしたないですよ」


 ボスと呼ばれる少女は、よくわからないといった顔でめんどくさそうに服を着る。そしてしばらくすると筑波と白馬は意識を取り戻した。


「ようやく起きたか、待ちくたびれたぞ。貴様が神の子の一人か?」


 ボスは確信を突いた言葉を述べる。


「ええ、神の子で間違いないかと思います」


 少女の言葉に筑波は肯定する。しかし神の子って何だ?


「面白い。今すぐ手合わせをしよう。私が、貴様の力量を測ってやる」


「手合わせ……いやいや、無理です」


「無理だと言う人間には前に進む価値がない。これは決定事項だ。有無は言わせん。さあ、早く準備に取りかかれ」


「ボス、了解です」


 筑波は微笑して、若干引きつった顔をしながら白馬を見つめた。


「まあ、死なないとは思いますが?ボスはこうなると、誰にも止めることは出来ません」


 少女の容姿による年齢からは考えられない、覇気を纏った人格。


「白馬君、検討を祈ります」


 もうなるようになれだ。白馬はイヤな予感がひしひし感じる。


「あー、でも。ボスは加減を知らないからなー。んー、今のは独り言です。聞かなかったことに」


 独り言が怖いよ。どうしてこうなった。だけど、ポジティブに考えるしかないよな。


 そんな折に「逆風こそ好機なり」祖父の言葉がふと頭をよぎった。


 じいちゃん、向かい風を進むのは困難極まりない。だけどこれは分岐点だと思う。逃げてはいけない、やらないでか。

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