13 初陣

 奈落落ちがカトマンズに到達するまで二時間弱。その戦力はおよそ五万人。


 狂花がサノラムさんに部屋を借りて、メンバー間の作戦会議が始まった。


 狂花は、開口一番に傭推に指示を出す。


「傭推、敵のアジトの壊滅とボスを潰してこい」


「了解ですボス」


 それに傭推は頷いた。


「じゃあ、サヤ、UNA、輝、白馬の四人で、敵の主力叩いてこい」


「りょーかいボス」


 サヤを筆頭に、各々の受け答えをする。


 そんな中、ミナサが不安そう顔で懇願した。


「白馬も行くなら、私も行きたいです」


 しかし、狂花は首を縦には振らなかった。


「駄目だ、白馬に戦場を理解させるために、お前が一緒だと意味がない」


 ミナサの懇願を一蹴させた。


 ミナサは暗い顔でブツブツと何かを言っていて、ちょっと怖かった。


 狂花は白馬の顎をクイっとすると、顔を近づけて問いかける。


「白馬、お前は人を殺せるか?」


 いつかはこんな局面もくるかもしれないと、白馬は思っていた。


「わかりません」


 今の僕は、そう答えることしかできなかった。


 狂花は、むむーっと何やら考え込む。 


「そうだな…お前には、まだ罪について話していなかったな。


「罪ですか?」


「罪には二種類あって、意識的罪と無意識的罪があるわけだが、少し長くなるぞ」


 白馬は首を傾げた。


「意識的罪?と無意識的罪?」


 狂花は頷いた。


『意識的に罪を侵すって意味だが、死んでいい命はない、それは罪を理解できていないからいってしまうことだ』


『死んでいい命はたくさんある』


『例えば自分の大事な人が酷い目にあって死んだとして、それを法律で裁かれたとしても、お前はそれで許せるのかって話だ』


 白馬は両親のことを思い出す。


「許せないと思います」


 狂花は頷く。


『犯罪の殆どは未然に防ぐことができない、そして犯罪が起きてからでは手遅れだ』


『損害の埋め合わせなど、誰もできはしない。失ったものは戻ってこないからな』


 白馬は肯定する。


『罪を償おうが、死のうが、結局は罪は消えない』


『そして、それをどっかの偽善者が言う、根っからの悪人はいない、死んでいい命はないと?』


『どれだけ甘い環境で生きているんだと、私は思う』


『もし、戦場で自分が殺されそうになったら、情けを相手にかけるか?』


『相手を殺すしかないだろ?』


『それに、敵の大将格を殺せば早く戦争が終わる』


『つまりは味方の怪我人や死人が減らせるんだ』


 白馬は苦笑した。


『外国がいい例だろう。不安だから、信用出来ないから、銃を手離さない』


『結局、人間とは、互いに分かり合えないのかもしれない』


『殺した方がいいクズなど山程いた』


『何故、戦争が存在するのかわかるか?』


 白馬は答える。


「欲望を満たすためですか?」


 狂花は首を左右に振る。


『答えは単純だ、話し合いで互いに解決できない、だから暴力で簡単に解決しようする』


 白馬は疑問を言葉にする。


「僕達からしたら理不尽ですね。どうにか出来ないんですか?」


 狂花は苦笑する。


「難しいだろうな。それができなかったから、今があるのさ」


 狂花の顔を眺めた。いつもと違って真剣な表情だ。白馬は、言葉の続きを待った。


『だからルールがある』


『ルールとは縛る為のものだ』


『スポーツでもルールがなければやりたい放題、反則当たり前になるだろう』


『大人とはルールをどれだけ理解しているかなのさ』


『だけどな、ルールが全てではない、人間の作ったルールだ。間違いもある』


 狂花は言葉を繋げる。


『ここからは無意識的罪の話だ』


『無意識的罪とは、無意識に罪を侵すこと』


『人間が無意識に食べ物を食べる、それだけで罪となるんだ』


『何故、人間は他の生物をいたずらに殺したり、食べることが許されているのかわかるか?』


『例えば、動物園で管理される生物達は、人間の娯楽として捕らえれて見世物にされている』


『人間以外の生物は、権利などなにもないに等しい』


『何故だかわかるか?』


 白馬は思考が追いつかない。


「考えたこともないです」


 狂花は結論を出す。


『その答えは、人間中心主義が人間の根底に存在するからだ』


『人間はこの地球上で最も賢く、美しく、尊く考えられているからだ』


『私にいわせれば、人間はこの地球上で最も身勝手で、欲深く、醜い生物だ』


『人間は自らを特別視する傾向にあるんだ』


 白馬は、微笑することすらできなかった。


『人が何故、罪を侵すのか?』


『罪を犯す人間の原因は、子供の頃に正誤を理解できなかったことや、ストッパーが外れてしまったことだ』


『そして、絶対悪も存在する』


 狂花は言葉を続ける。 


「我々はテロリスト、神のルールを壊すモノだ」


 白馬の頭の中で、狂花の言葉が反芻する。


「そういえば、テロリストで気になったのですが、革命家はテロリストなんですか?」


 白馬は狂花に疑問を口にした。


 そしてそれを、狂花は肯定する。


『テロリストは、成功したものだけが正義となる』


『負けたものは、汚名を被せられるだけだ』


『この世界のルールを乱すものは、全てテロリストなんだろうな』


『私達も、理由はどうあれ人を殺している』


『ロクな死に方はしない、だけど白馬、お前は間違えるなよ』


 狂花はそう言って悲しげな顔で笑った。


 白馬は深く頷き、きっとこの人達はたくさんの悲しみを背負っているのだと感じた。


 そして、白馬は忘れかけてたことを問いかける。


「傭推さんを一人で行かせて、大丈夫何ですか?」


 狂花はキョトンとした顔を見せると、高笑いをして、自慢するように話した。


「傭推の能力の一つである、影成りを使えば簡単だろう」


 傭兵の能力を、白馬よくは知らない。


「影成り?」


 狂花は頷く。


『能力を詳しく話すと。影成りとは、明るい場所であれば、傭推は影そのものになり、ダメージを一切受けることがなくなる』


『それに影は刃にもなるし、絞殺する事も出来る』


『影成りを使った傭推は、時速四百キロの速度で移動が可能だ』


『だが、弱点もある。逆に暗い場所では能力が使えないし、心を乱されたら能力は解除される」


 白馬の中で、あまり高くはなかった、傭推の株が大きく上がった。


 狂花は眠そうに欠伸をする。


「話はここまでだ、準備して早く行け」


 狂花は優しく僕の背中を押した。 


 他のGod Killerメンバーも頑張れっと順番にポンっと肩を叩いていった。


「死ぬなよ」


 と狂花は笑った。


 白馬はGod Killerに入って驚いてばかりだ。この人達となら世界なんて簡単に変えてしまうのではないかと思う。

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