9 鬼コーチと鬼

 白馬は食堂で朝食を済ませる。


 それにしても凪沙さんの手料理ホントに美味しかった。


 あんなふわふわのだし巻き玉子は初めて食べた。


 ボスこと狂花。狂花に言われたことを思い出す。


『お前には死ぬほど修行をつけてやる』


 今日から厳しいトレーニングが始まる。


 狂花との約束通りトレーニングルームへ向かった。


 トレーニングルームは地下にあり、移動するのに時間がかかった。


「広っ!学校の校庭の何倍あるんだろ?」


 見渡す限り真っ白な空間、白馬はトレーニングルームでしばらく待つが、狂花は来ない。


 ……三十分後、狂花でなくハルさんがトレーニングルームに訪れた。


「おやおや、白馬さんじゃないですか?どうされました?随分、早起きですね!」


「実は、ボスから稽古つけてもらう約束でしたが……こられないので?」


「うーんと?ボスはこの時間帯、起きてる所見たことないですよ」


「そうなんですか?じゃあ、ストレッチでもしてますかね?」


 白馬は項垂れ、どうしたものかと悩む。見るに見かねたハルさんが助け船を出してくれた。


「白馬さんさえ良ければ、私が稽古つけてあげましょうか?」


「良いんですか?」


「良いですよ」


 ハルさん優しいな。しかし、ハルさんのトレーニングの邪魔にならないだろうか?


「だけど、ハルさんのトレーニングのお邪魔ですよね?」


 ハルさんは優しく笑った。


「構いませんよ、一人でトレーニングするのは寂しかったので」


 ハルはトレーニングルームの中央に移動して、白馬に手招きをする。


「しばらくは白馬さんのトレーニングは体力作りがメインですね」


「まずはストレッチをして、受け身、合気道、砂浜と水中シャトルラン、それが終われば手合わせを致しましょう」


「砂浜に水中シャトルラン?」


「今から海にでも行かれるんですか?」


「白馬さんはまだ知らないんですね。このトレーニングルームは環境、地形を自由に変化出来るんです」


 ハルは自慢げに話しだした。


「例えば雪山、火山、砂漠、何でも御座れです」


「凄い!そんなことが可能なんて!」


 ハルは白馬の反応に満足すると、ストレッチを開始した。


 ストレッチをした後の受け身、合気道、シャトルラン、手合わせ、どれも手加減なしだった。


 僕が弱音を吐こうとしたら、だんだん口調が厳しくなる。


「白馬さん、そんなんでへこたれるのか?男でしょ!」


 ……ハルさん怖い。ハルの所作の美しさに、ドキドキして恋をしたのは錯覚だったのだ。


 目の前にいるのは……


「鬼だ、鬼コーチだ」


 そうして夕方になり、ようやくボスが現れた。


「白馬、今から修行な」


 さんざんハルにしごかれ、もう無理。


「僕は…生きて帰れるのでしょうか?」


 ボスは遠征の際の雪山へ環境、地形を設定し、僕の服を引ん剥いた。


 白馬死ぬなよっと笑いながら部屋の外へ。


「ハッ!?死ぬわ、寒すぎるわ」


 ……三十分後。


 能力 耐寒をゲットした。


 ボスは僕をそのまま放置した。


 ……二時間後。


 能力 極寒耐性をゲットした。


 白馬はドアを叩く。誰か、誰か助けて。


 しばらくして、白馬が晩御飯にこないから心配になって見に来たハルさんが、凍りついて開かないドアを開けてくれた。


 僕を見たハルさんはちょっと顔が赤かった。


「ハルさんマジ女神」


 白馬の中でふつふつと狂花への恨みが明確化した日だった☆


 そして一日が終わった。

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