2 目覚めた日
この世界には三分の二の人間が特殊能力を持ち、三分一の人間は無能と揶揄される。
能力を持つ人間が優遇され、力を持たない人間は蔑まれる。
そして力を持つ人間は必ず大成した。
僕も幼い頃から無能と馬鹿にされて、イジメや差別を受けた。
だが、貧乏ではあるが、両親には恵まれて幸せだったのだと思う。
どうして歯切れの悪い言葉を使うのか、不思議に思うだろう。
何故なら両親と暮らしていた記憶が不鮮明なのだ。
全ての記憶がないわけではない。
しかし、記憶を思い出そうとすると、スノーノイズのように記憶にモヤがかかってしまう。
だが、あの時のことは、今でもはっきり鮮明に覚えている。
僕が七歳の頃、両親は奇妙な病気で死んでしまった。
おやすみなさいと挨拶をして、次の日におはようと返ってくることはなかった。
両親はなにかに怯えながら、その最後を遂げた。
死因は原因不明の病だった。
原因不明の病により、母も父も枯れ果てたミイラのようになってしまい、かつての面影もない。
両親を亡くした僕は、親戚の家をたらい回しされた。
『だけど、辛くても生きなきゃいけない』
『涙を流しても何の意味もないことを僕は知っている』
『神様、僕に力をください。強くなるための勇気を』
『神頼みは何の意味もないことも知っている』
『しかし、人間はなにかに縋らなければ生きていけないのだ』
『僕は絶対に泣かない、そう決めたから』
それから数年が経ち、僕は昨日から田舎に帰っており、今にいたる。
今何をしているのかと言うと、必死に化け物から逃げている。
時間を1時間ほど遡ると、夏休みに生まれ故郷である祖父の家に僕は遊びに来ていた。
縁側で
「…っち……こっちに来て」
「!?」
誰かに呼ばれている。
誰だかわからかいけど、これだけはわかる。行かなきゃいけない。
何故、行かなきゃいけないのかわからない。
しかし、直感が声のする方へ行けと告げている。
「早く、こっちに来て」
先程より声が鮮明に聞こえた。
僕は、声を頼りに、昔よく遊んだ小高い山の神社に向かった。
40分程で神社に辿り着いた。しかし、誰もいない?
僕は神社の周りを探索していると、木々が茂る神社の北側からドカドカと大地を踏み砕く、何かが疾走する足音が聞こえる。
その何かは、木々をなぎ倒したがら進んでいる。
音はだんだん近くなり、咄嗟に神社の境内に隠れた。
息を潜め、しばらくすると、音の正体が現れる。
それは熊に見えて、明らかに熊ではない。
体長2メートル以上の頭が三つあり、腕が六本ある化け物。
化け物は僕に気付いている、そう感じた。
何故なら一直線に、僕に向かって来たからだ。
体は震え、それでも死にたくない。
僕は不格好に走り出した。
案の定、化け物は僕を追いかけてきた。
何か武器はないのか、必死に頭を働かせる。
走っていて気付いたが、こちらは崖で逃げ場がない。
しかし、引き返す道はないのである。
何でこんな所に、こんな化け物がいるんだよ。
僕の運の悪さは、相変わらず絶好調だな。
マジで死ぬから、短い人生だったな。
って嫌々、死にたくないから。
大体何で熊が頭三つ、腕六本あるんだよ、わけわかんねー。
白馬は、この状況を打開する手段は無いのか必死に考えるが、アイデアは浮かばない。
ふと祖父のことを思い出す。
祖父は、猟師の仕事を依頼されることがある。
そんな祖父が、昔言っていた言葉がある。
「熊に出くわしたら死んだふりをせずに、どうしても助かりたいなら鼻を突け」
しかし、武器になりそうなモノはない。
もうすぐ逃げ場が完全になくなる。
僕は逃げながら、石を拾って化け物と対峙した。
後ろは崖、目の前には化け物。
僕の心臓がドクドクと脈打ち煩い。
化け物は飛びかかり、僕は咄嗟に石を投げる。
石は化け物の口の中に入り、化け物は悶えた。
その隙に、化け物の隙間に身を投げ出す。
化け物が着地すると崖は崩れ、化け物は崖の下に落ちた。
下を確認すると、化け物の胸には尖った木が刺さっていた。
どうやら化け物は死んだようだ。
僕はホッとして頭が冷静になると、不満が爆発した。
何で僕ばっかり、こんな目に遭わないといけないんだ。
周りの人間はあんなに幸せそうなのに、不公平だろ。
僕は暗い気持ちで神社に戻ると、白髪の美少女が境内は前に佇んでいた。
少女は、僕に気づいて近寄ってくる。
僕はこんにちはと、挨拶をして立ち去ろうとした。
すると少女は白馬、ちょっと待ってっと呼び止める。
「君は誰?初対面だよね?何で僕の名前を知ってるの?」
少女は悲しそうな顔をして、俯いた。
「記憶を失ってるんだね…ちょっと目を閉じて」
僕は言われた通り目を閉じ、おでこに柔らかい感触がした。
「これで多分、そのうち記憶が戻ると思うよ、ファーストキスだから大事にしてね」
少女ははにかみ、寂しそうに笑った。
「次、私の事忘れたら許さないからね」
白馬が逡巡していると、少女のスマホが鳴り出した。
「ごめんね。もう行かなきゃ、またね」
少女は踵を返そうとする。
そんな少女に懐かしさを感じ、一瞬、何か違う景色が見えた気がした。
このままでは、少女は遠くへ行ってしまうと、そう感じた。
「お前は必ず救う、絶対だ」
白馬の口からは自然と言葉が出た。
不思議に感じながらも、胸が苦しくなった。
少女は、ビックリした顔でニッコリと笑う。
「白馬はやっぱり、白馬だね。私は、私だけは白馬の味方だから。約束守ってね」
少女が小走りで階段を降りて行くのを見送った。
僕もそろそろ帰らないと、爺ちゃんに怒られる。
急いで帰ろうとした僕は、異変に気づいた。
周りの音が消えている?次の瞬間、僕は目隠しされ意識を失った。
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