番外編7 黒田五郎という男
黒闇の中、黒塗りの高級車で移動している。
「私は黒田五郎。職業は政治家であり、ヤクザでもある」
黒田五郎の秘書はため息を吐く。
「海外でまた、身寄りのない子供を拾ってきたそうですね。貴方は本当に変わった人だ」
「私もそう思う。人が目を背け、見て見ぬ振りをするのが常識であるのかもしれん。だけどな、ここで目を背けると真っ直ぐ前が見れんくなるんや。私はここで目を逸らすわけにはいかん。手を差し伸べるのが変人なら、普通ってなんや?」
「普通は身寄りのない子供を何人も拾ってはきませんよ」
「手を差し伸べない人間ばかりで、それが正しいはずはない。人間は常識やルールばかりを押し付けて、大事なことを教える人間は殆どおらん。子供は国の宝や、失わせてはアカン。目を背けるな、見て見ぬ振りをするんやない、そんなことが普通であることがおかしいんや」
「確かにそうかもしれませんね」
「それにな、子供に暴力を振るう親がおるが、絶対にいかん。見栄やプライドを捨てて、心から本気になって話し合えば分かってくれるんや。暴力に頼って言うことを聞かせるのはやったらアカン」
「教育評論家みたいなお言葉ですね。政治家を辞めて、教育評論家になられては?」
「それじゃあ、世界を変えられんだろう」
「確かにそうですね」
「私わな、今の多数決って制度が嫌いなんや。他人任せやし、多数決ほど不公平なものはない!例えばな、法律を作るのに多数決をするやろ。無能な人間の多数で作るべきではない法律が出来る。八百長で法律が作られる。意図して我欲のある法律を作る」
「多数決の穴ですね」
「そうや、政治家は何のために働いてるかわかるか?」
「国民のためですかね?」
「違う、国のためや。最初は国民のために政治家を目指す奴もおる。しかし、次第に国のために変わるんや。何故かと言うとな、周りの政治家の殆どが国のために働いとる。それを見とると、そっちの方が正しいのだと思うんよ。口では国民のためやと言う、その方が印象がええからな。国のために働くことが悪いわけやない、国がなければ困るのは国民や」
「ですが、貴方は違うんですね」
「聡いな、政治家ちゅうんは国民と国の二つのものに板挟みや。政治家は何故、国民のために優しい国、誰もが幸せな国を作らんかわかるか?」
「難しいですね。甘やかさないためですかね?」
「ちょっと視点が違うな。答えは単純に現実的じゃないからや。もっと言えば国に負担がかかるし、金もない。皆、政治家に夢を見すぎなんや、国民も若造も」
「五郎さん。貴方は実現させるつもりなんでしょ?」
「わかっとるやろ、そんなこと」
「ですね。そろそろ、事務所に着きますよ」
「そうだな」
黒田五郎の事務所へ到着し、残った仕事を済ませるために五郎は事務所に入った。
「あれ?誰もおらんのか?」
室内は真っ暗で誰もいない。
「invisible hand of Godのメンバーなら、しばらくは帰ってきませんよ。しばらく、貴方を監視させていただきました。貴方は正しい、だから貴方はここで死ななければいけません。私は貴方を殺すために雇われた暗殺者です」
「それは困るな、お前は秘書として優秀やったんやけど。依頼額の倍を払うと言ったら、こっちに寝返らんか?」
「大変魅力的なお話ですが、私には選択肢がもうないんです」
「そうか……」
「では、死んでください。言い残すことは?」
「私が死んでもなぁ、私の思いを引き継ぐ奴等はたくさんおる。私の関わった奴等は皆、熱い思いを持っとった。お前も、その一人やと思う。幸せな未来を頼むで」
「何でアンタは死ぬ間際に、そんなことを言うんですか?私は貴方を監視の名目でずっと見てましたが、私だってわかってる。貴方はこんな所で死んではいけない人です。わかってるんです……」
「
「それは出来ません。ですが、断っておいて図々しいのは承知ですが、五郎さん。一つお願いがあります。私の息子をお願い出来ますか?名前は
「そうか、わかった」
五郎の言葉を聞いた秘書は、自分の額に銃を突き付け、引き金を引いた。その死に顔は安らかで安心しきった顔だった。
「馬鹿野郎が」
五郎は天童の瞼をそっと静かに閉じさせた。
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