第二幕 其ノ五
速さで勝つ事は
そしてその
しかしそうなるのは分かっていたとでも言う様に、ユノの攻撃は剣に
一人による無限コンボ。一度でも受け損ねればそのまま終局まで一気に詰めて行く、それがユノの本気で戦う時のスタイルである。
「これは……思った以上に……っ、出来るな! 一撃の重さは
「……っ! 知っていたのか!」
「聖剣『
「では今度こそ! 聖剣の名が伊達ではない事をその身に刻んでやろう!」
「ふっ……。聖剣の力に頼っておる様な程度では! 未熟! 未熟未熟未熟!」
ユノの
「だがここまで某に打ち込んで来たのはここ十年でお主だけだ。誉めてやろう!」
「抜かせ! 今からそのニヤケ
ユノに
自身にはまだまだ
「来たれ!
ユノの
「はああああああああああああああああああ!」
しかしユノはこの魔法でヒラキを仕留められるとは考えて居ない。これはあくまで奥義を発動させるのに必要な僅かな『溜め』の時間を稼ぐための足止めでしかない。
ユノの全ての魔力を聖剣『
「食らえ! 奥義! テラブレイク!」
およそこんな地下空間で使用するに
その凄まじいまでの衝撃は広く作られた地下空間全体を震わせるものの、ユノによって鋭く収束されていた力は、大規模な破壊を生み出す事はなかった。
ユノ達が戦っている魔法陣の部屋も、天井から細かい破片がパラパラと落ちてくる程度で、
全精力を使い果たし肩で息をしながらも、それでもユノはまだ油断なく剣を構え周囲の気配を窺う。
「今の一撃、流石聖剣の勇者。素晴らしい一撃であった! 当てる事さえ
ユノはその言葉に応える事なく、声のした位置目掛けて剣を繰り出す。
「流石に先程までの様には行かぬか。精彩を欠いておるわ」
「くっ……!」
「本命がまだ控えておるのでな、某の体も温まって来た所であるし、前座にはそろそろご退場願うと
ヒラキがそう言うと同時にユノの目の前から、何の予備動作もなく
と同時にユノの背中に激しい衝撃が襲い掛かる。
「がっ……はっ……!」
一瞬にしてヒラキに背中を逆袈裟に斬り付けられたユノは、衝撃とともに弾き飛ばされ受け身を取る事も出来ないまま壁に叩き付けられる。
一撃の下に意識を刈り取られたユノは、そのまま力なく地面に
「安心しろ。峰打ちだ。少々派手に激突したが命に別状はあるまい。そんな
ヒラキはトワに向けてそう告げる。
「なあに、元から心配などしておらんよ。自ら戦いに
淡々と答えるトワ。
「そんな事より、お主が来ぬなら儂から仕掛けさせて貰おうかの?」
「カカ! それには及ばぬよ! 主の実力、相当な物と見ておる。初めから全力で行くぞ!」
「光の如き──と言われるその実力、しかと見せてもらうとしようかの」
「そう言われたのはもう二十年は昔の話。今の某は──」
その言葉を言い終わる事なくヒラキの姿が
同時──
「光を置き去りにする!」
誰の目にも映る事なき超光速の
「どれ程の
トワは超光速で繰り出された斬撃をいとも
「しかし人の身で、しかもその若さ──ヒラキの
口調が
「う……おおおおおあああああああああああああああああ!」
トワの事情など知らぬヒラキにとって、それは有り得ざる程の屈辱、恥辱。
そしてそれ以上に
ヒラキの人生の全てが否定されている様ですらあった。
勝てない。
いやさ、超光速『ごとき』では勝負にすらならない。
只の一撃。
相手からの反撃すらない。
いや、反撃する必要すらなかったに過ぎない。
天と地どころか、
だが、ヒラキは何十年と己を研磨し続けて来た
越えられぬ壁を何度も越えて来た。
絶望など幾度となく斬り伏せて来た。
そうでなくば、光の速さを越えるなど
「ああああああああああああああぁぁぁぁぁぁ………………」
己の限界を知り、それを越える。そうしてヒラキという剣士は強くなって来た。トワという絶対的な壁にぶつかり、ヒラキはこの瞬間にも更なる飛躍を見せようとしていた。
その様子を実に楽しそうに、そして愛おしそうにトワは見つめていた。
呼吸を整えヒラキは再び静かに剣を構える。
「いざ……参る!」
超光速から更に加速を見せるヒラキ。
限界を超えた加速から生じるエネルギーを制御する事が出来ず、衝撃で肉体がバラバラに弾け飛びそうになるのを必死に耐えるヒラキの顔は、実に愉快そうに笑っていた。
一瞬の間すらもなく埋められる
だがやはり、ヒラキの剣がトワに届く事はない。
ピタリ──
親指と人差指、
「クックッ。更に加速するとはのう。ホンに凄い奴じゃよお主は。儂が光の速度に達するのでさえ何万年費やしたと思おて
およよと剣を掴む反対の手で出ても居ない涙を
その間も絶えずヒラキは剣に力を込めていたが、押そうが引こうがビクともしない。こんな少女のどこにこれ程の力が有ると言うのか。
「じゃがまだまだ、お主では儂の遊び相手にもならん。出直して来るのじゃな!」
トワが軽く腕を振って掴んでいた剣ごとヒラキを壁に向かって放り投げてしまう。
ヒラキは瞬時に着地の態勢を取り、壁への激突を避ける。
トワに負わされた肉体へのダメージはほぼ無いに等しいが、ヒラキの心は完全なる敗北を認めていた。
現状におけるこれ以上の戦闘は無意味と判断したヒラキは、この場からどうして逃れるかを思案する。
「心配せずとも逃げたければそうするが良いぞ。その積りであればお主はもう
その言葉通り、トワはもうヒラキの事を見ておらず
(本当に某をこのまま逃がす積りか? 舐められたものだ。…………が、それも致し方なし。この実力差ではな)
ヒラキには今完全に背中を見せているトワに襲い掛かったとしても、次の瞬間無残に屍を
「では、お言葉に甘えて退散させて頂くとしましょう。御免」
偶然か必然か。
仲間の女が
ヒラキは不審に思いながらも、さりとて雇い主が
トワはヒラキがユノを拾って逃げて行くのを確認すると、
「ああ、しまったー。わしがゆだんしたばかりにユノがさらわれてしもうたー」
誰に聞かせるともなく、棒読み口調で
「なあにがしまったーだ。自分で攫わせといて良く言うぜ……くそっ! ってててて」
「あれを追いかけるんだろ? さっさと連れて行きやがれってんだ」
「では早速」
トワはヒョイとフェムトを背中に背負う。
体格差からフェムトの足が地面を
「んっ…………」
トワは顔を少し上気させ、フェムトの行為に敏感に反応する。
「さっさと追いかけないと見失うんじゃねーか。まあ俺にはとっくに何処に行ったか分からんが」
さわさわもみもみ。
ユノが攫われ様がどうしようがどうでもいいフェムトは、折角の機会にトワの体を
トワもそれを拒むことも、怒って放り出すこともせず、ただ甘んじて受け入れる。
「んんっ……。そうじゃの。儂の体を楽しむのも良いが、振り落とされん様に気を付けるのじゃぞ。何処かにぶつけでもすれば一瞬で
「げっ!? まじかっ!?」
それを聞いてフェムトはトワの体をまさぐるのを片手だけにして、もう片方はしっかりとトワの服を掴み体を密着させる。
「では、
フェムトを背負ったトワは、ヒラキが去った跡を
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