第二幕 其ノ二
「こちらのお部屋など
通された部屋は庭園を
ユノは見事な庭園や
一方のフェムトは、
そんな二人を
男は丁寧なお辞儀の後、静かにその場を辞して行った。
「これは……実に見事な部屋ですね!」
「少しくらい貰って行っても良いんじゃねぇか」
「良い訳なかろ。阿呆な事言っておらんと折角のお高い宿じゃ、楽しまんとな」
「それです! 自分の分くらい自分で出します!」
その言葉にトワは指を一本立てる。
「
「うっ…………」
「ハア? 一片金だぁ? おまっ! ばっっっっかじゃねぇのか!」
「一人頭で割ってじゃよ? 袖の下も合わせると──」
トワは指を四本立てて見せる。
「ふぅ…………」
余りの額に意識が遠のくユノ。
「よよよよよよ……四片金だああああああああ? 宿に一泊で四片金とか、お前頭沸いてんじゃねぇのか? 正気か? 俺は正気じゃいられねぇわ!」
「儂が全部払っておるのじゃから気にせんでも良かろうに」
「無駄遣いすんじゃねぇって言ってんだ! こんな使い方してたらあっという間に
「そしたらまた稼げば良かろう。銭など使わない方が無駄じゃ」
「カーッ! 銭がなくっちゃぁいざってぇときどうするってぇんだよ!」
「いざという時頼りになるのは」
誰の目にも映らぬ速さで抜かれた刀が、フェムトの眼前に突き付けられる。
「銭ではなく、
そう言うと手品の様に刀が消え、元の鞘に納まっている。
二人が考える「いざという時」には大きな隔たりがある様だった。
その後も色々と
「極楽極楽」
惜しげもなくその裸身を晒すトワと、対照的に何とかフェムトの視線から肌を隠そうとするユノ。二人の美少女に挟まれ眼福であるはずのフェムトは、トワに裸をマジマジと観察されていて余り楽しめていなかった。
風呂の後はそれはそれは豪勢な食事を済ませ、これもまた当然の様にフェムトを
トワに手招きされ、ユノは最早観念したのか大人しく
トワはフェムトの胸に顔を埋める様にしてギュッと抱き着くと、そのままフェムトを抱き枕にして寝てしまう。何とも満足気な顔をしていた。
フェムトがその無防備なトワの体を「色々と」
「痛てぇ!」
「ふん。
「ハァ? 不埒な真似だぁ? これは役得って言うんだよ脳筋女!」
「なっ!? 誰が脳筋女だ! 貴様の
「ハアーーー!? 言いやがったなてめぇ! もう容赦しねぇぞ! ありとあらゆる卑怯な手でヒィヒィ
「やれるものならやってみろ!」
二人が完全に起き上がってドタバタと暴れ始める。
放り出されたトワがむくりと起き上がる。
「静かにせんかっ!!」
一喝すると同時に、有無も言わさず二人に一撃喰らわせ昏倒させてしまう。
「こ奴らは黙って寝る事も出来んのか……ふぁ~ぁ……むにゅ」
倒れた二人を手早く元の位置に戻し、自分もまたフェムトを抱き枕にして眠りに
翌朝。
宿を後にした三人はアクダイの繁華街をブラブラ散策していた。
広い
領主の
一本二本外れた路地までも整備されており、浮浪者などの姿は見受けられない。治安も良さそうである。
領主が若かった頃は、古い遺跡探索や古書の
民には
そんな調子で昼時まで街中をウロウロし、お腹が空いて来たので近くの飯屋へと入る。
「で? 何が楽しくてこんな引っ張り回してくれたんだ? あ?」
「昨日は小遣い稼ぎで忙しくてのう。街を回れなんだのでな。ただの観光じゃ」
「んなもん一人で行けっつーの。……あーっ! 疲れた……。俺はもう歩かねぇからな!」
「そうか……仕方ないのう」
少し寂し気な表情を浮かべるトワ。
知った事かと意にも介さないフェムト。
フェムトを置き去りに出来るかもと、嬉しそうなユノ。
「そうじゃ! 儂がおぶって……」
「ヤメロ!」
「止めて下さい!」
「おおう……そんなに嫌かの?」
「そんな事されるくらいなら、
「こんな奴など首に縄でも付けて引きずり回してやれば良いのです」
「何だとてめぇ!」
「ヤル気ですか? 良いでしょう! 掛かって来くるがいい!」
「二人とも静かにせんか。ここは飯を食う所じゃ。暴れたいなら飯を食った後にせい」
「チッ!」
「フン!」
トワに水を差され、渋々上げた腰を下ろす。
「フェムトが疲れたと言うのなら仕方がない。今日は一日観光に
「予定って何だよ?」
「まだ秘密じゃ」
「へっ。
そうこうしていると卓に料理が運ばれて来たので、トワは手を合わせ、ユノは略式の祈りを捧げ、フェムトはさっさとパク付き始めていた。
「そういやお前、俺が気に入ったとか言ってたが……自分で言うのも何だが、俺の何がそんな気に入ったんだよ」
「あ! それは私も気になります!」
ハイハーイと手を挙げて主張するユノ。
「ん? 言っておらんかったか。似ておるのじゃよ。儂の初めての夫にの」
サラッと見た目十代前半の少女なトワがそんな事を言う。
「は?」「へ?」
予想外の答えに二人して間抜けな顔になっておるなぁ等と、しょうもない感想がトワの脳裏を
「お前結婚してた──」
「
フェムトの言葉を
「ちょっ! おい! おれ──」
「顔ですか!」
「顔は似ておらんのう。もっと賢そうな顔じゃったからのう」
「背格好ですか!」
「似ても似つかんのう。もっと背が高くて引き締まっておったのう」
「ではもしや……性格ですか!」
「こんな小悪党ではなかったのう。真面目で
「じゃあ何にも似てないじゃないですか!」
「じゃがそれが不思議と瓜二つなんじゃよ。魂の形がのう」
「魂……ですか……?」
「茶屋で一目見た瞬間分かってしもうたよ。こ奴はあのお方の生まれ変わりに違いないと」
「それは見て分かる物なのでしょうか」
「カッカッ。お主達には分からんかもしれんが儂にはよう見えとるからのう。一目瞭然じゃ」
「同じ魂の形、生まれ変わりなのはこの際良しとしましょう。私では正誤の判断が付きませんので。ですが、今のこ奴は只の屑。目を掛けてやる値打ちはないかと思いますが」
「儂にとってはその程度の事、
「でしたら!」
「じゃからお主にこ奴を鍛えて貰おうかと思っておる」
「「はああああああああああああ!?」」
二人の絶叫が見事にハモる。
「ビシバシ
「トワ様に頼まれては致し方ない。貴様のその腐った性根を叩き直してやる!」
「大きなお世話だっ! っておい! 俺の話も聞け!」
「貴様の話に
縁側で流れる雲を見ているのも案外好きなトワが、「無駄扱いされてしもうた……」とショックを受けていたが、その言葉を発したユノは気付いていなかった。
「誰の話が無駄だっ! お前ぇもちったぁ興味のある話だろうさ! 黙って聞けってんだ!」
「儂は聞きたいぞ?」
「トワ様がそう
フェムトはユノの態度にチッと舌打ちをしながらも、これでやっとさっき言いかけた事が聞けると自分に言い聞かせ、心を落ち着かせる。
「お前結婚してたのか?」
「うむ。初めての夫に
「んん? 初めてが遥か昔で、その後何回も結婚してるって……お前、そんな
「それなんじゃがなぁ……千を超えた頃から面倒になって数えておらん」
「「千……」」
「むかーし同じ様に年を聞かれての、一度調べてみて貰った事があったのじゃが、『判然とはしなかったが、少なくとも万の単位では足りない』とか言っておったな」
「「……万……以上だと……」」
「その時より近い時代の時には、『億年以上は間違いなさそうですね』とか言うておったわ。クックックッ」
嘘か真か分からぬ話を楽し気に話すトワ。とても年齢の話とは思えない単位に、二人はホラ吹きすぎだろと思いつつも、こいつ(このお方)ならあり得るかもしれないと思わせる何かがトワにはあった。
「じゃーなにか、お前は不老不死の仙人様か何かってぇ事か?」
「ん? いや儂は普通の人間じゃよ。見れば分かろう。こんなカワユイ仙人など見た事あるか? あやつら爺婆か若作りばかりじゃからのう」
「そもそも仙人自体見た事ねーよ!」
そもそも仙人自体見た事ねーよと言いそうになったのをグッと我慢するフェムト。
「そうか。見た事なかったか。まだ探せば何処かに
そうトワに言われて、フェムトは全然我慢出来てなかった事に気付く。
「不老不死と言うのもちと違うのじゃが、まあ結果的には同じようなものであるし、そう言うても大きく間違っておるわけでもない、かのう」
「結局どういう事だよ?」
「不老不死という扱いで
「普通の人間は百年と経たず死ぬんだが?」
「そこはちと昔色々あってのう。
「コブ付きかよ」
「それも昔の話じゃ。今儂の系譜で生きておる者は
トワはヨヨヨと涙を
フェムトに変化がないと見て、トワは泣き真似を直ぐに止めてしまう。
「何か優しい言葉の一つでもあるかと思うたが、残念じゃ」
「演技がバレバレなんだよ。まあ演技じゃなかったとしても俺の反応は変わらんがな!」
とそこで、ユノが割って入る。
「トワ様。もし差し
「ああ。別に構わぬよ」
トワは
「そうじゃのう……何処から話したものか……。ふむ。お主等、神族と魔族は知っておるの?」
「はい」「見た事はねぇがな」
二人それぞれの返事が来る。
「奴等の事、どの程度の脅威だと感じて
「そうですね……世界の命運を左右するくらいには」
「まっ、そんな感じだ……」
真面目に答えるユノと、明らか知ったかぶりしてるだけのフェムト。
「まあそんな所じゃろうな。そも神族と魔族とは、それより遥か昔に存在して
「なっ……!?」
「そんなバケモンが居んのかよ」
「ん? いやもう
朝にご飯を食べましたよ位の気軽さで言いのけるトワ。トワにとっては正に朝飯前の事ではあったのだが。
開いた口が塞がらない二人を
「その神と悪魔も元を辿れば、
全くもって無責任な話じゃと軽く
「そうして『原初の混沌』の力を得てしまったのじゃが、まあその後色々あって、他の『原初の混沌』や儂と同じ様な巫女と戦う羽目になり、その全てを
相当に
「まあ儂の事はもう
聞かせんかと続けようとした所で、トワの言葉は
「居たぞ! こっちだ!」
店の入り口からこちらを見て、一人の男が声を上げる。
その声を聞き付けて仲間と
「ここは場所が悪いな。大人しく付いて来て貰おうか」
「でえとのお誘いにしては物々しいのう。断ると言うたら?」
「強がらん方が身のためだ。俺達が用があるのはそこの金髪の女だけだ。黙って差し出せば見逃してやる」
どうやら自分の追手だと悟ったユノは、気を引き締め男達を問答無用で叩き伏せようと剣に手を掛けた所で、そっと男達に気付かれない様にトワによって抑えられる。
「確かにここじゃあ周りのお客さん方に迷惑だ! 場所を変えてゆっくり話そう!」
「行くぞてめぇら!」
「はい」
フェムトの命令を受け大人しく立ち上がるトワ。
トワは目配せでユノに従うよう
渋々ながらユノも「はい」とフェムトに返事をして立ち上がる。
その様子を見た男達には思い当たる
「もしやお
「へい。グオーデ様の所の生き残りでさぁ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます