第二幕 其ノ一
アクダイの街の料亭の一室で二人の男が向かい合って座っている。
特に商人風の男は高級そうな指輪や装飾でゴテゴテと着飾り、お世辞にも品が良いとは言い難い。だがその経済力を見る者に
逆に貴族風の男は一切の飾り気がない。世間体もある故、服装自体は丁寧に作りこまれた特注品である。ただ、それ以上の装飾は無駄とばかりに徹底的に排除されている。
そんな二人の男が料亭の一室でしていること。密談である。
「して、フテリよ。例の件、どうなっておる?」
貴族風の男がフテリと呼ばれた商人風の男に問いかける。
「はは。ナキアヅカ様。先日
フテリはナキアヅカと呼んだ貴族風の男に頭を下げつつ返答する。
「おお! そうかそうか! でかしたぞ! やはりお主に頼んで正解であったのう!」
「はは! 誠に有難きお言葉」
「お主の働きが有ったればこそ、良き
「ナキアヅカ様のお陰で、領民一同平穏無事な暮らしが出来ておるという物。そのナキアヅカ様の為とあらば、このフテリ、一肌も二肌も脱いで見せる所存で御座いますれば」
「はははは、こ奴め口ばかり上手くなりおって。
「ははー! 有難き幸せ! 一日も早く仕上げ、お届けする事に致しましょう」
「うむ。一日千秋の思いで待っておるからのう。裏で奴隷商をしておったお主に目を掛けてやった甲斐があったというものだ」
「今では裏表どちらも牛耳る大店にまで上り詰めました。それもこれもナキアヅカ様のお陰で御座います。これはお目汚しでは御座いますが……」
フテリはそう言って懐から鈴を取り出し、チリンチリンと鳴らす。
スッと静かに戸が開き、特徴的な首輪を付けた裸の少女が一人、二人の居る部屋へと入って来る。恥じらいの表情を浮かべながらもその瞳は諦めの色を浮かべている。下腹部にはユノにも刻まれていた、例の呪印が施されている。
「ご依頼の品をお届けするまでの箸休めとして、是非お納めください」
「ほう……。中々に美しい
「この娘は弓の使い手で御座いまして、
「そうか。それは実に
「ふふふ、ナキアヅカ様は良きご趣味をお持ちで御座いますな」
「はははは。お主とて負けてはおるまい」
「「はっはっはっはっはっ」」
◇
アクダイの街へと戻ったトワ、ユノ、フェムトの三人。
詰め所に入り討伐完了の報告を済ませ、報酬を受け取る。
一件一件の報酬がそこそこな額であるのに、貼り出されていた物全てを片付けたので、その報酬額も相当な物になっている。それとは別に、賊のアジトから金銀財宝を根こそぎ奪って来ているので、トワの懐は大変暖かくなっていた。
「昨日と同じ宿に泊まる予定じゃったが、今日はたんまり稼いだからの。街一番の宿に泊まるとしようかの」
そう言って訪れた宿は、門構えからして誰が見ても「これはお高い」と納得の高級宿。
豪商や大貴族御用達の宿である。
ユノやフェムトが余りの場違い感に二の足を踏んでいると、そうするのが当然と言う様にトワは一人ズンズンと奥へと入って行く。
宿の者と思われる男がトワに目を留めにこやかに歩み寄って来る。
「いらっしゃいませ。本日ご予約のお客様でしょうか?」
見た目少女のトワ相手にも丁寧な対応で、決して子ども扱いする事はない。
「いや。空いておる部屋はあるかの?」
「ええ。御座います」
「三人で泊まれる部屋で、一番良い部屋を頼む」
「三名様ですね。
「ん? そこに居るじゃろ……?」
とトワが振り返ると、二人が居ない。
「すまんの。ちょっと待って貰って
「はい。お待ちしております」
トワは門の外まで一旦戻ると、「早く行けよ」「貴様が先に行け」と二人で押し合い
「何をやっておるのじゃ。さっさと来んか」
「「はい」」
それでもなお近寄りがたい雰囲気を醸し出す二人を、トワは半ば引きずる様にして連れて行く。
「三人じゃ。よろしく頼む」
「ではご案内致します。こちらへどうぞ」
男に案内され、トワ+二名は宿の奥へと進んで行く。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます