第二幕 其ノ一

 アクダイの街の料亭の一室で二人の男が向かい合って座っている。

 上座かみざには貴族風の男、下座しもざには商人風の男。両者とも質の高い身形みなりをしており、その懐具合も知れ様と言うものだ。

 特に商人風の男は高級そうな指輪や装飾でゴテゴテと着飾り、お世辞にも品が良いとは言い難い。だがその経済力を見る者に誇示こじする役には立っていた。

 逆に貴族風の男は一切の飾り気がない。世間体もある故、服装自体は丁寧に作りこまれた特注品である。ただ、それ以上の装飾は無駄とばかりに徹底的に排除されている。

 そんな二人の男が料亭の一室でしていること。密談である。

「して、フテリよ。例の件、どうなっておる?」

 貴族風の男がフテリと呼ばれた商人風の男に問いかける。

「はは。ナキアヅカ様。先日わたくしめの手の者から連絡が御座いまして、くだんの女勇者、捕らえたとのよしに御座います。既に呪印も刻み調教も進めておるとの事、近々御献上出来るものと存じます」

 フテリはナキアヅカと呼んだ貴族風の男に頭を下げつつ返答する。

「おお! そうかそうか! でかしたぞ! やはりお主に頼んで正解であったのう!」

「はは! 誠に有難きお言葉」

「お主の働きが有ったればこそ、良きまつりごとを為す事が出来るというものだ」

「ナキアヅカ様のお陰で、領民一同平穏無事な暮らしが出来ておるという物。そのナキアヅカ様の為とあらば、このフテリ、一肌も二肌も脱いで見せる所存で御座いますれば」

「はははは、こ奴め口ばかり上手くなりおって。い。献上品を受け取ったあかつきには、また望みの褒美を取らせようぞ」

「ははー! 有難き幸せ! 一日も早く仕上げ、お届けする事に致しましょう」

「うむ。一日千秋の思いで待っておるからのう。裏で奴隷商をしておったお主に目を掛けてやった甲斐があったというものだ」

「今では裏表どちらも牛耳る大店にまで上り詰めました。それもこれもナキアヅカ様のお陰で御座います。これはお目汚しでは御座いますが……」

 フテリはそう言って懐から鈴を取り出し、チリンチリンと鳴らす。

 しばらくすると廊下を歩いて来る足音が一つ。

 スッと静かに戸が開き、特徴的な首輪を付けた裸の少女が一人、二人の居る部屋へと入って来る。恥じらいの表情を浮かべながらもその瞳は諦めの色を浮かべている。下腹部にはユノにも刻まれていた、例の呪印が施されている。

「ご依頼の品をお届けするまでの箸休めとして、是非お納めください」

「ほう……。中々に美しい女子おなごではないか。して、どの程度のか?」

「この娘は弓の使い手で御座いまして、およそ三十間先の動く的に皆中かいちゅうさせる程の腕の持ち主に御座います」

「そうか。それは実にいのう。どんな声でいてくれるか、実に楽しみだ」

「ふふふ、ナキアヅカ様は良きご趣味をお持ちで御座いますな」

「はははは。お主とて負けてはおるまい」

「「はっはっはっはっはっ」」


 ◇


 アクダイの街へと戻ったトワ、ユノ、フェムトの三人。

 ず向かった先は、アクダイとその周辺の治安維持を務める警邏けいら隊の詰め所。詰め所の前に立掛けられた看板には、近辺に出没する賊の情報と討伐報酬が貼り出されている。

 詰め所に入り討伐完了の報告を済ませ、報酬を受け取る。

 一件一件の報酬がそこそこな額であるのに、貼り出されていた物全てを片付けたので、その報酬額も相当な物になっている。それとは別に、賊のアジトから金銀財宝を根こそぎ奪って来ているので、トワの懐は大変暖かくなっていた。

「昨日と同じ宿に泊まる予定じゃったが、今日はたんまり稼いだからの。街一番の宿に泊まるとしようかの」

 そう言って訪れた宿は、門構えからして誰が見ても「これはお高い」と納得の高級宿。

 豪商や大貴族御用達の宿である。

 ユノやフェムトが余りの場違い感に二の足を踏んでいると、そうするのが当然と言う様にトワは一人ズンズンと奥へと入って行く。

 宿の者と思われる男がトワに目を留めにこやかに歩み寄って来る。

「いらっしゃいませ。本日ご予約のお客様でしょうか?」

 見た目少女のトワ相手にも丁寧な対応で、決して子ども扱いする事はない。

「いや。空いておる部屋はあるかの?」

「ええ。御座います」

「三人で泊まれる部屋で、一番良い部屋を頼む」

「三名様ですね。かしこまりました。直ぐにご案内出来ますが、お連れ様はどちらに?」

「ん? そこに居るじゃろ……?」

 とトワが振り返ると、二人が居ない。

「すまんの。ちょっと待って貰っていかの」

「はい。お待ちしております」

 トワは門の外まで一旦戻ると、「早く行けよ」「貴様が先に行け」と二人で押し合いし合いしているユノとフェムトを発見する。

「何をやっておるのじゃ。さっさと来んか」

「「はい」」

 それでもなお近寄りがたい雰囲気を醸し出す二人を、トワは半ば引きずる様にして連れて行く。

「三人じゃ。よろしく頼む」

「ではご案内致します。こちらへどうぞ」

 男に案内され、トワ+二名は宿の奥へと進んで行く。

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