深淵を覗く
世界最悪の犯罪街と名高い、エルレフ市イレッダ特別自治区——通称〈成れの果ての街〉で生きる人々の日常に迫る本連載も、今回で第一〇回となる。
大手メディアからは敬遠されていた「危険な街」の現在を鮮明に伝える姿勢には、読者の皆様からも一定の評価をいただいてきたのではないかと自負している。
しかし、である。筆者はいまだ、この街の核心に触れてはいない。この街の狂気を象徴する「怪物」たちへのインタビューが実現できていなかったのだ。
このような文を前置きとしたのには理由がある。聡明な読者諸氏はもうお気付きかもしれないが、第一〇回の節目を迎える今回、筆者はついにイレッダ地区を拠点に活動する〈銀使い〉へのインタビューに成功した。
件の銀使いは、どこの犯罪組織にも属さない「フリーの殺し屋」を自称しており、一切の個人情報を公開しないという条件で取材に応じてくれた。本記事では、その模様を余すところなくお伝えさせていただく(なお、情報提供者の身の安全を守るため、インタビューが実現するに至った経緯は伏せさせていただきます)。
——それではインタビューを始めさせていただきます。早速ですが、あなたが銀使いになった理由をお聞かせください。
「金、それ以外にないね。ほとんどの化け物が同じ動機だと思うよ」
——犯罪組織や大企業などからの依頼で委託殺人を行なっているそうですが、あなたの場合はどういったやり方で?
「テーマは『一片も残さず綺麗に平らげる』だね」
——差し支えなければ、具体的な説明をお願いします。
「言葉通りの意味だよ。殺し方はその日の気分によって違ってくるけど、事後処理のやり方は毎回同じだ。肉や内臓を調理しておいしくいただくのはもちろん、骨や髪なんかにも充分な利用価値がある。まあ、実際に見てもらった方が解りやすいかな? このあと君に予定がなければ、僕の仕事の様子を見せてあげてもいいけど」
まさかの展開だった。本来は短時間のインタビューで終わる約束だったにも拘わらず、彼の突然の気紛れにより、実際に委託殺人を行なう様子まで取材できることになったのだ。筆者に断る理由などあるはずもな……
(読了まであと七〇%。この続きは有料会員のみ閲覧できます)
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