零細ではよくあること
どうしたんだ新入り、さっきからずっと手が止まってるぞ。
確かに入社して3日も経たないうちに現場に駆り出されるのは気の毒に思うがね、新人をゆっくり育ててられる余裕はウチにはないんだ。
お前にはまだピンと来ないだろうが、イレッダ地区は俺たち清掃業者にとっては激戦区なんだからな。
まあ、理由は解るだろ?
この街じゃ人間が簡単に死に過ぎる。
そして当然のごとく、他殺死体を街中に放置すれば数日で腐ってしまうんだ。異臭と病原菌を撒き散らし始める前に、誰かが死体を片付けて街を清潔にしなきゃいけない。
おいおい、真っ青になってるじゃねえか。勘弁してくれよ。
ちょっと脳天を銃でブチ抜かれてるだけだろ。こんなの可愛いもんさ。
拷問にかけられてたり、〈銀使い〉に殺された連中なんかはもっと酷い有様だぜ。ホテルの壁一面に15人分の内臓がこびりついているところなんて、イレッダ地区以外じゃ絶対に見れない光景だ。
まあ、あの時は流石に3日くらいメシを喰えなくなったけどな。
……だいぶ落ち着いてきたか? オーケイ、じゃあここらで休憩にしよう。
しかし、最近は随分と暇になってきたな。書き入れ時だってのに、今月はまだ五件しか受注できてないんじゃねえか? 営業の連中にはもっと頑張ってほしいよ。
何だその顔。
もしかして営業になりたいのか?
まあ確かにこびりついた血や内臓をブラシで擦り続けるような真似はしなくてもよくなるが……。
ただ、個人的にはあまりおすすめしないね。
営業の方が精神的に楽なはず?
お前は何を勘違いしてんだよ。
断っておくが、営業担当者こそ、まともにやるには相当の覚悟が必要だぜ。ただ黙々と作業していればいい俺たち現場の人間とは違うんだ。
お前に、社員全員の生活を背負って案件を引っ張ってくる覚悟はあるのか?
ノルマがヤバい時には、自分で死体を用意する覚悟はあるのかって聞いてんだ。
……はは、何を今さら驚いてんだよ。
この現場も当然、会社による自作自演に決まってんだろ。
清掃しなきゃ誰かが迷惑を被る場所で、業者の手を借りなきゃ処理しきれないほどに汚らしく人を殺す。それから電話をかけて契約を取ってくるまでが営業の仕事なんだ。ウチみたいな零細ではよくあることだよ。
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