39人では軽すぎる
「だから、あのコンテナにはいったい何が入ってるんですか!」
助手席に座る新入りの男は、荷台に積載されたコンテナをしきりに気にしていた。そろそろ疑問を感じる頃合いだと思ってはいたが、大型トラックの運転中に喚かれては溜まったものではない。俺は盛大な溜め息を吐いた。
「お前の仕事はあのコンテナを目的地まで無事に送り届けることであって、探偵気取りで中身を推理することじゃない。違うか?」
「で、でもっ! あんたにも聞こえてるだろ、この叫び声が!」
「車が速く動けば風の音が鳴る。よかったな、これでひとつ賢くなれた」
「ふざけるな、あれは絶対にそんなんじゃねえ! 何なんだ、恐竜でも入ってるのかよ?」
「今日は随分と風が強いんだな。嵐が来るかもしれない」
「ほら、いまコンテナが陥没したぞ! 中に化け物がいる証拠だ!」
「少し黙れ、新入り」俺は煙草に火を点ける。「俺たちの世界じゃ、知りたがりは誰よりも早死にするんだ。お前は何も聞いていないし、何も疑問に思っちゃいない。いいな?」
「…………車を停めてくれ」
「は?」
こちらとしては最後の忠告のつもりだったが、新入りには理解してもらえなかったらしい。すっかり蒼白になった男は、その先に何があるとも知らずに最悪の道を選択してしまったのだ。
「俺をここで降ろしてくれっつってんだ!」
臆病であることは〈成れの果ての街〉を生きていく秘訣だが、それもここまで来ると救いがない。
一掴みほどの寂寥が混じった感情とともに、俺は車を路肩に乗せた。
「……逃がしてくれるのか?」
「いや、コンテナの中身を教えてやろうと思ってな。……中に入ってるのは人間だよ。お前が想像するような化け物なんかじゃない」
この先を続けるのは忍びなかったが、食い扶持を守るためには仕方のないことだ。俺は覚悟を決めて口を開く。
「ただそいつはちょっと食欲旺盛でね、本当に何でも喰っちまうんだ。どこかのギャングが処理に困った死体を試しに与えてみたら、ものの五分で完食しちまったとのことだ。それ以来あいつは、優秀な死体処理係。先方の話じゃ、今回は三九人まとめて処理させたせいで、自力じゃ動けない体重になっちまったらしい。……そこで運び屋の俺たちが呼ばれたわけだ」
「まっ、まさか今まで運んでたのは……」
「そう、〈銀使い〉だよ。よく気付いたが……残念だったな。秘密を知った上で逃げようとしたバカは、40人目になる決まりなんだ」
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