錆色、夕景、鉄の味

 正直に言うよ。

 ボスにお前と組めと命令されたとき、こんな能無し野郎のお守りは絶対に嫌だと反対したんだ。ああ、そのくらいお前の評判は最悪だった。


 俺たちが組んで二日目に起きたことを覚えてるか?

 お前はあろうことか、命よりも大切なはずの集金袋を持ったまま呑みに出かけたんだ。しかも酒場でひっ捕まえて説教してたら、ゲロで俺の一張羅を汚してきやがっただろ。あのときばかりは流石にぶっ殺そうと思ったね。


 ……ただ、まあ、単純接触効果とでもいうのかね。

 毎日顔を合わせるうちに、お前に対する殺意は少しずつ薄れていった。お前は確かに仕事のできない間抜けだが、駄弁ってる分には愉快な奴だったからな。


 くだらねえ話は山ほどやった。

 それでも飽きなかったのは、俺たちが何から何まで正反対だったからだろう。


 車なんて動けばいい主義の俺に対して、お前は安月給のほとんどを愛車の違法改造に注ぎ込んでいる。クスリなんて飛べればいい主義のお前に対して、俺は材料の原産地から製造所までこだわり抜いて仕入れている。

 

 そんな風に趣味嗜好がまるで違う二人だ。

 当然、意見が対立するたびにどちらが負けを認めるまで殴り合った。いつしかそれが、俺たちの間の唯一のルールになったんだ。勝敗なんていちいち数えちゃいないが、トータルで見りゃ随分といい勝負だったんじゃないか?


 配慮なんて煩わしいものはいらない。

 お互いの意見がぶつかり合えば、俺たちは気が済むまで殴り合った。それこそ、どちらかが負けを認めるまで。


 まあ、そういう関係性はシンプルでいい。

 何もかも正反対な俺たちには、きっとそのくらいがちょうどよかったんだよ。


 ……だから、好きになる女が同じだったときは心底驚いたよ。お前はもっと化粧っ気の濃い、落ち目の舞台女優みたいな女がタイプかと思ってた。


 だがそんな事態でも、俺たちの間に面倒なやり取りはいらない。

 そうだろ?

 殴り合いの結果、どちらがメリッサを手に入れても恨みっこなし。いつも通りのシンプルなルールだ。これでお互いに文句はないはずだよな。


 だから、……間違っても化けて出てくるんじゃねえぞ。

 死ぬまで負けを認めなかったお前が悪いんだ。

 俺だって、こんなことになるとは思ってなかったんだよ。

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