不敗神話
上半身裸の屈強な大男が、蒸留酒のグラスを飲み干して言った。
「だから何度も言ってんだろ。俺は今まで勝負と名の付くもので負けたことがないんだ。どんな手を使っても必ず勝てと親父に教わってきたからな」
「またそれだ」テーブルの向かいに立つ呑み仲間は鼻で笑った。「バッツ、お前の見栄っ張りにはもう飽きたよ。負けたことがない? じゃあこの前、酒場でおっ始まった銀使い同士の殺し合いから逃げてきたのはどう説明する?」
「逃げたことを皮肉ってるんならお門違いってもんだ。俺が負けないのはまともな人間が相手のときだけ。あんな得体の知れない化け物どもはカウントするなよ」
バッツは空にしたグラスをウェイターに渡しながら切り出した。
「まだ疑ってるな? なら賭けで勝負しよう。今から最初に声をかけた奴が、人を殺したことがあるかどうか。相手はお前が選んでいい」
「何を賭ける?」
「今日の呑み代と、そうだな……。負けた方の奢りで娼婦でも買いに行くか」
「よし、乗った」
呑み仲間は安酒場を一通り舐め回したあと、眼鏡をかけた小太りの男を指名した。親の財布が分厚いという理由だけでこの街を我が物顔で歩いているような情けない男。どう見ても恋人には見えない美女の腰に手を回しながら、小太りの男は親の事業がいかにうまくいっているか、自分にどんなポストが用意されているかについて熱心に語っていた。
「ようデブ、ひとつ質問してもいいか?」バッツは小太りの男から娼婦を引き剥がして言った。「あんた、人を殺したことは?」
小太りの男は一瞬硬直したあと、怯えた様子で首を横に振る。
「はっ、どうやらそいつは善良な市民様らしい。お前の負けだよ、バッツ」
勝ち誇った表情の呑み仲間に不敵な笑みを向け、バッツは懐から拳銃を抜いた。
小太りの男の、芋虫のような五指にそいつを無理矢理握らせる。そしてダンスを手解きする要領で腕を持ち上げさせ、抵抗するデブの指を引き金に掛けさせた。
響き渡る銃声。
銃口の先にいた金髪の男が倒れ、地の果ての酒場が悲鳴と絶叫に染まっていく。
バッツは放心する殺人者から得物を奪い取り、堂々と言い放った。
「ほら見ろ、今回もまた俺の勝ちだ」
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