第二十二幕 アイドル誕生!?

「さて、目的地は決まりました。しかし当然ながら旗揚げする為には実行兵力が必要です。目的の街へ向かう道すがら私兵を集めていきましょう。まずはこのダラムから始めますよ?」


 というアーネストの進言によって、早速募兵を開始する事になった。今までは資金的な面からシュテファンやヘクトールが個人的に集めてきた私兵くらいしかいなかったが、バジルが加わった事によってより規模の大きい資金の運用が出来るようになり、アーネストが大体的な募兵を提案したのだ。


「曲がりなりにも一城を預かる太守を相手取る訳ですからね。場合によってはその周辺勢力とも。それを考えると、何とか500人以上は集めたい所ですね。というより街という基盤を持たない放浪軍の身ではその辺りが限界でもありますので、その限界目一杯まで集めましょう」


 といっても正規兵になっておらず他の定職にも就いていない力の有り余っている男など、どの街でも数は限られている。


 なので目的地の街まで移動しながらその途上の街でも同じように募兵を繰り返して、最終的に500人を目指す。そういう方針のようだ。


「それだけでなく、放浪軍という物はどの街の太守からも歓迎されないものです。時には民からも。『簒奪』を目論む潜在的な反乱分子とも言える存在なのですから当然ですが。なので一つの街に長く留まって募兵を続けたりはどの道難しいでしょう。また規模が大きくなればなるほど各諸侯達から警戒されやすくなり、領内に入った瞬間退去勧告を出される事もあり得ます。その意味でも迅速な行動が不可欠です」


 アーネストによると大体100人辺りが境界線のようで、それ以上になってくると諸侯からの警戒が徐々に上がってくるらしい。なので一度その境界線を超えたら、後はひたすら迅速に突き進むほかないのだという。


 その県にとって有益な事をして太守に利益を齎したり、『通行料』や『滞在料』を支払う事で一時的な逗留が許可される事はあるが、当然資金に限りがある状況でそんな金をいつまでも払い続ける余裕はない。


 つまり一度募兵したらもう後戻りはできないという事だ。後は旗揚げに成功するか、最終的に諸侯から討伐されるかのいずれかしかない。



「今一度問いますが、あなたにその覚悟はお有りですか? 旗揚げして名乗りを上げ、天下に討って出るお覚悟が」


「……はい! ここまで来たら……いえ、最初から私に迷いはありません。天下に討って出る覚悟は出来ています。何事にも常に全力で臨むべし、です!」


 アーネストの問いに躊躇いなく頷くディアナ。それは義母の元を発った時から覚悟している事だ。今更後に引く気はない。


「いいでしょう。では早速その第一歩です。今この街でシュテファン殿とヘクトール殿の御二方がある程度の私兵を集めて下さいました。全部合わせても100人に満たない数ですが、この街単体ではこれが限界でしょう。この私兵達に、自分達の頭領・・が誰かを知らしめるのです。即ちあなたの存在を認知させるのです」


「……!」

 ディアナは緊張する。この茱教の浸透した男尊女卑の世の中で、女である自分が彼等の上に立つ事を了承させる……。果たして出来るのだろうかと弱気がもたげる。だがこんな事で尻込みしていては、この先国を興す事など不可能だ。


 ディアナは拳を握り締めて表情を厳しくする。それを見ていたアーネストがふっと笑う。


「そうご心配される事もありませんよ。他ならぬ我等があなたの下に付く事を選んだのです。それに男というのはあなたが思っているよりも単純な生き物なのですよ? あなたがいつも通りの姿を見せてあげれば、私兵達は喜んであなたの傘下に入る事でしょう」


「そ、そうなんですか……?」


 やけに自信ありげに頷くアーネストの姿に、ディアナも若干緊張が解れる。


「ええ、そうです。という訳でこれから早速向かいますが、その前にあなたはいつものあの鎧姿になっておいて下さい。誰が見繕ったのか解りませんが、あの鎧は中々あなたの魅力を引き出してくれる優れものですよ」




 アーネストの提案に従って鎧に着替えたディアナは、彼に案内されてそのままダラムの城門を出る。すると街からやや離れた平野に、いくつかの天幕が張られた小規模な陣が出来上がっていた。


「あれが『我が軍』の陣です。これからまだ人数も増えていきますし、当然街中に彼等全員が逗留できるような施設はありませんので、基本的に放浪軍はこうして城外に仮の陣を張るのが通常となります。買い物や物資の補充など街に用がある時は、必要に応じて少人数で出向くという形になりますね」


「な、なるほど……」


 アーネストの説明を聞きながら、ディアナはある種の感慨を持ってその小さな陣を眺めていた。



(これが……私の軍・・・……!)



 非常に小規模ながら、曲がりなりにも自分の勢力・・・・・という物を持った事になるのだ。


(全てはここから始まるのね……。でも、その為にも最初が肝心ね! 絶対に私が主だという事を納得させてみせる……!)



「おう、来たな! もう皆揃ってるぜ!」


 陣に到着するとヘクトールの巨体が出迎えた。彼が指し示した陣の中央は簡易的な広場になっており、そこに何十人もの男達が整列していた。彼等を監督しているのはシュテファンのようだ。


 私兵達は皆不揃いながら武具を身に着けていた。バジルが徹底的に街の相場を調査し、『適正な』価格で買い揃えたものだ。他にも兵糧を始めとした物資の備蓄もバジルの主導で進んでいるようだ。


 彼等の前には一段高くなった演台が置かれている。どうやらディアナはあそこに立てばいいらしい。アーネストに促されて演台に上がるディアナ。


 その姿を見た私兵達からざわめきが生じる。当然だが私兵達には既に主が女性である事は説明してあった。だがどんな女性なのか見るのは今が初めてのはずだ。


(う、うう……み、見られてる……! や、やっぱり駄目なの? 女なんかの下には付けないって、皆帰っちゃったらどうしよう!?)


 その状況を想像するだけで血の気が引いて脚が震えるが、幸いというか誰もこの場から立ち去る者はいなかった。シュテファンやヘクトールが大きく咳払いすると、私兵達のざわめきが止んで静かになる。しかし相変わらず壇上のディアナの姿を食い入るように見つめている。


 ディアナはアーネストの進言通り愛用の鎧を身に着けていた。女性用に改造したやや露出度の高い甲冑姿。彼女の顔だけでなく、鎧からむき出された脚や腕などにも私兵達の視線が集中していたが、緊張しているディアナはそれに気付く余裕はなかった。



「さ、ディアナ殿。皆、あなたのお言葉を待っています」


 同じ壇上の一歩下がった場所に立つアーネストがそう言って彼女を促す。ディアナは緊張しつつも自らを鼓舞して私兵達を見下ろした。そして一回大きく深呼吸するとゆっくりと口を開いた。


「あー……皆さん。もう名前だけは聞いてるかもしれませんが、私がこの放浪軍の頭領・・であるディアナ・レア・アールベックです。まずは我が軍・・・に馳せ参じてくれた事に、心からのお礼を言わせて下さい。本当にありがとうございます」


 ディアナは壇上で礼を取る。誰も、何も言わない。皆、無言で彼女の話に聞き入っている。



「皆さんは頭領が女だと聞いても尚ここに集ってくれた方々です。そんな皆さんであっても、私のような小娘が頭領という事を知って驚かれたと思います。確かに私はまだまだ未熟です。それは否定しようも無い事実です。でも……今の戦乱の世を憂いて、それを終わらせたいと願う気持ちはどんな英傑にも勝っていると自負しています。そして至らない所は改善していけばいいし、自らを鍛えればいい事です。しかし1人で全てを為す事は出来ませんし、する気もありません。だからこそ皆さんのお力が必要なのです。皆さんが私を支えて頂けるのであれば、私は必ずや国を興し、天下を統一する為に戦い抜く事が出来るはずです。私には皆さんが必要なのです。このような頼りない私ですが、私自身も決して現状に甘んじてはいません。必ず皆さんの主に相応しい人物になってみせます。皆さん、どうか……私を支えて、一緒に戦って頂けますか?」



 ディアナは演説の最後をそう締めくくった。凛として自らの理想を訴えたかと思うと、今度は弱さを出して男達の庇護欲を誘う。そして最後に止め・・の懇願。


「う…………」


 誰かが呻き声とも唸り声とも付かない声を発する。それを皮切りに……



 ――ウオオォォォォォォォォォッ!!



 私兵達が一気に熱狂した。手を振り上げて歓声を上げる者も多い。100人に満たない人数が発した物とは思えないほどの大音量が大気を震わせた。中には「ディアナちゃーーーーんっ!!」などと叫ぶ猛者もいた。シュテファンやヘクトールが押し留めていないと壇上にまで押し寄せてきそうな勢いだ。



「え、ええ!? な、何ですか、これは!?」


 その反応に一番驚いたのが当のディアナだ。私兵達の反応に若干引き気味になっている。


「言ったでしょう? 男とは単純な生き物なのですよ。元々女性の頭領でも構わぬと、物珍しさから集まったような連中です。ましてやあなたのようなタイプの女性は彼等も初めてでしょうから、色々と刺激・・が強かったようですね」


 アーネストが大歓声でも聞こえるように耳打ちする。そして顔を離すと、


「……より正確には、頭領が類まれな美少女・・・であるという触れ込みで集まった下心満載の連中でしたので、あなたがその鎧を着て登場した時点でこの結果は火を見るより明らかでしたが」


 ボソッと呟いたが、勿論歓声に紛れてディアナの耳には届かなかった。そしてアーネストは何食わぬ顔で再び彼女に耳打ちする。



「さあ、彼等に笑顔で手を振ってあげなさい。そうすれば彼等は更に熱狂して涙を流し、あなたの為に命をも惜しまずに働いてくれるでしょう」


「そ、そうなんですか? わ、解りました」


 言われた通りに、ややぎこちないながらも笑顔を作って手を振るディアナ。すると明らかに歓声の音量が上がり、燃え上がらんばかりの異常な熱気となった。


 最小規模とは言え、正式に『ディアナ軍』が発足した瞬間であった……

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る