第34話
「未希、未希!・・・大丈夫か!?」
ココアから降りた拓海は心配そうな表情で呼び掛ける。
猛烈な嵐に襲われ薙ぎ倒された木々、円盤状に削り取られたような周辺はその魔法の威力を連想させるに相応しい有り様になっていた。
右手にしっかりと握られたままの小さな杖は少し焦げたようにも見え、先端に付いていたはずだった蒼い魔法石は小豆よりも小さくなってしまっていたがキラキラと輝きを放っている。
フルパワーを使うと宣言した通り、精根尽き果てるまでの魔力を使い切ったことは彼女の様子を見れば明らかにわかる!
拓海は目覚めぬ彼女を抱いたまま、ココアに自分たちが住む街へと帰ってくれるように頼んだ。
「大丈夫です! 私も神の末端に位置するモノなのでわかりますが命に別状はありません、眠りから覚める頃には元気になっているでしょう」
ココアは2人を乗せてそう言うと飛び上がった。
一方、琢磨に同行し、家を目指して移動中の千代と孔明こと孝明はこの世の終わりに狂人と化し暴れ回る少数の人々を排除しながら歩いていた・・・
「もともとは善良な人たちなんだろうが全てが終わって消えてしまうという恐怖に耐えかねて何か、生きていた痕跡を残そうと暴れてるんだろう」
憐れむような口調で言った琢磨に同意するように頷いた千代は護身の為に持った右手の鉄パイプを見ながら
「ひょつとすると私たちもそんな風に見えてるのかも?」
悲しそうな顔でポツリと呟いた。
彼女は空想によって造られた世界とは言え、数多くの命を自らの手で奪い戦い続けて来たのだ!
本来は争いごとを好まぬ明るい女子高生であったにも関らず神々から選ばれし者として・・・
「大切な人を守る為に悪人の命を奪うことが罪だとは僕は思わない!」
「千代さんはそんな風には見えないよ」
孝明はそう言った。
「もう千代さんだなんて呼ばないでくれる?」
「現実の世界では孝明さんが年上なんだし、そんなに畏まった口調で話されると困ってしまうわ・・・」
恥ずかしそうに言った千代に孝明も照れながら
「そ、そうだな・・・千代、でいいのか?」
台詞を棒読みするような口調で言った。
何度か暴漢に襲われたが、千代が鉄パイプなどを使って身を守る必要は無かった・・・
琢磨の動きは素早く的確で凄まじく強い!
相手を気絶させたり動けなくするだけの手加減した攻撃を瞬時にやってしまうのだ。
きっとこの人は私が想像も出来ない修羅場を数多く経験し、多くの悲しみを乗り越えて生きて来たに違いない!
そう思いながら千代は琢磨の姿に勇気づけられた。
やがて千代が住むマンションに辿り着いた一行は階段を上がると扉の前に立った・・・
「俺はここで帰るよ、孝明君も千代さんも未希が無事にあの巨大な隕石というか惑星を破壊したらこの騒動も歓喜の騒ぎに変わるだろう」
そう言って孝明の肩をポンと叩いた琢磨は
「緊張するだろうけど頑張るんだぞ!」
「まぁ、ゆっくりしてから訪ねて来ればいいさ」
孝明にしてみれば何やら意味深の言葉を言った琢磨はその場を離れ、帰って行ったが千代には琢磨の言葉の意味がわかったようである。
自分の家とは言っても十数年も彼女的には時が経っているのである・・・緊張の面持ちで呼び鈴を押す。
「お帰り・・・あら、誰か連れて来たの?」
ドアを開けた母親は普段通りの様子で千代に話し掛けたのだが彼女にしてみれば久し振りに見る、母親の顔だ!
「お母さん!」
千代は泣きながら母親に抱きついた。
地球消滅という現実に耐えかねて泣いているのだろうと勘違いした母親は愛しそうに千代を抱き締めると優しく髪を撫でながら外に立っている孝明に挨拶した。
その声を聴いて千代は母親に孝明を
「私の愛する恋人を紹介する為に連れて来たの・・・」
そう言いながら紹介すると2人して中に入った
部屋の中には父親も居て、両親とも驚いた様子で2人を迎え入れた。
何も知らない両親を前に2人はこれまで起こった数々の出来事を真剣な表情で細かく話し始める・・・
初めは半信半疑の面持ちで聴いていたのだが2人の話は想像とは思えないほど現実味があり、地球は救われる!
千代と孝明の言葉に両親は手を取り合い喜んだ。
その時である、窓から蒼き閃光が差し込んだかと思うと惑星は眩い光を放ちながら消滅した!
長年に渡り共に戦って来た2人の未来を照らすかのような光を受けながら千代と孝明は固く抱き合った。
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