第33話

「ココア、あの山の頂に降ろしてくれる」

しばらくココアに乗って飛んだ未希はそう言った。


「あんな狭い場所に魔方陣なんて描けるのかい?」

拓海が不思議そうな顔で彼女に尋ねると

「魔方陣は魔法のパワーを凝縮する為に魔法で描くモノだから地面があっても無くても関係ないの」

頂きに着地したココアから身軽に飛び降りた未希は

「ありがとう! 一緒に居ると危険だから空中でココアと一緒に待っててくれる!?」

拓海と離れるのが不安なのか、それとも危険が及ばないように案じたのか、寂しそうな笑顔を浮かべた。


「あれだけ巨大な惑星だから手加減無しのフルパワーを使い切るから多分、気を失って倒れるかも知れないけど心配しないで・・・」

そう言って拓海に抱きついた未希は

「衝撃波が無くなったら私を迎えに来てね」

甘えるような口調で恥ずかしそうに言った。


「勿論だよ! その為にここまで未希について来たんじゃないか・・・きっと迎えに来て連れ帰るよ」

そう言った拓海は未希を強く抱き締めると突然、キスをした後、照れ臭そうに微笑むと

「初めてのキスがこんな時でごめんね!」

未希を抱き締めたまま

「未希の力を信じてる!・・・きっとやれる!」

力強くそう言うとココアに飛び乗り

「偉大なる蒼き魔法使いの本気を空から見てるよ」

悪戯っぽく笑うとココアとともに空中へ舞い上がった。


「さぁ、この使命を果たす為に与えられた力ならば見せてあげましょう!・・・本気の魔力を!」

未希は右手に持った杖にそう話し掛けた・・・

今は亡き、自分に魔法のすべてを教えてくれた魔法使いのおばあちゃんに語り掛けるように。


息を吸い込みながら開いた両手により、蒼く巨大な魔方陣が描かれて行く!

何やら呪文らしきモノを唱えながら次第に手を合わせる動作をすると未希の身体からは蒼き炎が燃え上がり、その身体を中心に魔方陣は次第に速度を速めながら回転し凝縮して行った。


未希が呪文を唱え終え、杖を胸に当て鋭くなった目を閉じると蒼い閃光とともに未希の身体を包み込む!

ほんの一瞬、目を閉じた未希は気合いとともに目を見開き、杖を地球に接近して来る惑星へと指した。


山の頂から見下ろす木々は強風に煽られたよう一斉に揺れ動き、未希の杖から凄まじい光の矢が惑星を目指して放たれた!

肉眼でもかなり大きく見えるほどに接近していた惑星はその光の矢を受け、膨張したように見えたがそれも一瞬で粉々に砕け散ると消滅してしまった。


神でさえも消すことを成し得なかった脅威が未希の魔法により、一瞬で消し飛んでしまったのだ!

世界中の人々はその光景に驚愕した・・・

死を待つばかりだったこの世の終わりから一瞬で解放されてしまったのだから無理もない。


未希は消滅した惑星を確認すると力尽きて倒れた。


あまりの出来事に呆気にとられた人々は誰も知らない!

この地球が、この世界が、生きるすべててのモノが彼女が持つ杖の一振りで救われたことを・・・

その力を出せるようにする為に異次元へと送られ必死の戦いを繰り広げたことを・・・

彼女たち2人がこの世界を救ったのだ。


紅い稲妻と呼ばれた千代!

蒼き魔法使いと呼ばれし未希!

この世界を跡形もなく消滅させてしまうはずだった惑星を欠片さえ残さず消してしまった正義の炎である。

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