第31話 「新たなる神話へ」

「お父さん、お母さん・・・」

淳一と静香が聴き慣れたその声に振り向くとそこには2人が願い続けていた元気な息子の姿があった!


「拓海!?」

2人は信じられない奇跡を目の当たりにし、半信半疑で同時に声を掛ける・・・

あれはど祈り続けたのだ!

2人の気持ちは察するに余りあるものがあろう?

こぼれ落ちる涙を拭う前に2人は思いっ切り自分たちの愛する息子を抱き締め声をあげて泣いていた。


抱き締めた息子の温もりに安心したのか、2人は誰かを探すように周囲を見回しはじめた・・・

この奇跡を起こしてくれた人たちを探していたのだ!

「僕が目覚めた時に1人だけいつもの看護師さんが居て簡単に説明してくれたんだ」

2人の意図を察した拓海は言った。


「宇宙人ってホントに居るんだね!?」

日頃から不思議なことに興味を持つ、拓海は目を輝かせながら言うと

「ピノっていう名前の人で僕らを看護師さんの姿を借りてずっと見守ってくれてたみたいで僕を助けたのは彼らじゃなくてお父さんとお母さんの愛情だって言ってくれ

たんだ!」

そこまで言った拓海は2人に近づくと

「お礼は要らないから彼らのことは秘密にして欲しいと伝えて欲しいって頼まれたよ」

真顔で言った拓海に2人が親指を立て合図すると数年振りに心から笑った。


この光景を窓枠から雀に憑依していたピノは見ていたのだが嬉しそうに「ピピピッ」と鳴くと飛び去った・・・


地球滅亡のカウントダウンが近づいている現状など忘れてしまっているかのように3人でしばらく談笑していると花音が小さめの旅行バッグを下げてやって来た。


「もう行ってしまったのかしら?」

花音に気づいて見ていた3人に向かって問い掛けるが初対面である3人は何をどう答えていいかわからず一瞬の間が空いた

それに気づいた花音は丁寧にお辞儀をすると琢磨の妻であることを話し、彼が山神とここに未希を連れに来たことを説明した後に改めて旅立ってしまったのかを尋ねた。


「未希さんも一緒に行ったのですか!?」

事の次第をそこまでは知らなかった拓海が驚いて聞き返すと淳一がこれまでにあったことを拓海に詳しく話して聞かせることで旅立った後であることを花音に伝えた。


「未希が魔法使い?」

拓海は少し驚いた様子だったが彼女が旅立ってしまったことへの心配の方が大きかった!

「ワンワン!」

見ればナゼ今まで気づかなかったのか?

花音の足下には黒くて小さな犬が連れ添っていた。


「これはココアと言って山神様から何かを探すように頼まれてたらしいんだけどこの世界には無かったらしくてこれから向こうの世界に行くらしいです」

花音が説明すると拓海はココアの前にしゃがみ込むと

「そこに僕も一緒に連れて行ってくれませんか?」

真剣な表情で人間に話すように頼んだ!

頼まれたココアは思案するかのように首を傾げしばらく時間を置くと「ワン!」と答えた。


元気になったばかりの息子を危険な世界に送ることに不安を抱いた淳一と静香だったが宇宙人から聞いていた超人的な能力と山神に対する信頼感が勝った。


「一緒に行って未希さんを助けてあげなさい」

2人の言葉に応ずるかのようにココアは子犬から白虎の姿に変身すると

「私の背中に乗って下さい」

そう言った!

「魔法使いが一緒だから着替えは要らないんでしょうけど、あの人はよく裸で飛ばされちゃうからこれを頼んでいいかしら?」

花音の言葉に病室での一幕を思い出した拓海は吹き出しそうになるのを堪えながら頷くとバッグを受け取った。


両親に大丈夫だからと念を押した拓海がココアの背中に軽々と跨ると

「彼のことは私が全力で守ります! 多分、守る必要が無いほどの凄まじい強さを持っておられますけどね」

そう言い残し白虎となったココアが大きくジャンプすると同時にその姿は消えてしまった。


ロビーに設置されたテレビに映像はもう映っていない!

地球の運命は彼らの手に委ねられていた。



「紅い稲妻 とある彼女の奮戦記」 第25話へと続く。

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