第30話
「貴方たちはまだ御存知ないでしょうが、巨大な惑星がこの地球へと接近しており我らが住むこの世界は消滅すると盛んに報道されています」
主治医は普段とは別人のような口調で説明を始めた。
その話に寄ると人が歯車となり動いていた世の中はその機能をもうすぐ停止させてしまう・・・
そうなると生命維持装置により辛うじて生きている拓海の命も消えてしまうということ!
だが彼らに任せてくれれば必ず拓海を元気な姿に戻せるが特殊な能力を持った人間になってしまうことを詳しく丁寧に説明された。
「特殊な能力って・・・どんな能力なのですか?」
彼の話を無言のまま、真剣に聞いていた拓海の父親である淳一は恐る恐る尋ねた。
それもそうだろう!?
いくら必ず助かると言っても人体実験とか、そんな想像を心配したに違いないが例えどんな方法でもどんな姿になろうとも拓海が助かるのなら頼みたいという気持ちが表情に出ていた!
それは彼の隣りで聞いていた静香も同じである。
「彼は吸血鬼です!」
主治医は琢磨を指差すとそう言った・・・
その言葉に一瞬、空気が凍りつくが琢磨の優しそうな笑顔を見た2人は信じられないといった表情に変わる。
「吸血鬼と言っても貴方たちが想像する血を吸う化け物では無く、人間とはかけ離れた運動能力と再生能力を持つ超人と言った方がわかり易いかも知れません」
主治医は拓海の様子をちらりと心配そうな顔で見ながらそう説明した。
「どうか御願いします! この子が助かるのなら、元気な姿を見ることが出来るなら私は何でも受け入れます!」
急がなければ時間が無いことを悟った静香は叫ぶように懇願した・・・すかさず淳一も頭を下げる
「わかりました! 我らが必ず助けます!」
主治医はそう言って看護師に頷くと彼女は一旦、部屋を出て数名を伴い入って来た。
どう見ても医療関係者には見えないバラバラな服装と年齢で中には子供まで居る!?
「我々は実体を持たぬ宇宙人ですのでそこらに居た人間の身体をお借りしたに過ぎません」
驚いている2人に主治医は更に驚愕の事実を述べた!
「はぁ・・・?」
あまりにも現実とかけ離れた状況に夢では無いかと疑うような2人だったが例え夢でも我が子を助けてやりたい気持ちに変わりなかった。
「このことは生涯、自分の胸の内に仕舞い込んで置いて下さい、我々は誰にも知られず静かに暮らしてます!」
そう言って頭を下げた主治医と仲間は手早く拓海に付けられていた装置を外すと持ち込んだストレッチャーに乗せて扉を開けた部屋から大急ぎで運び出す。
その後を追い掛けようとした2人を制した山神は
「神である儂が保障しよう! ここで待っておれば元気な姿で拓海くんが姿を現すじゃろう」
山神の言葉に呆気にとられた2人だったがナゼか山神の言動には説得力がある・・・本当に神様なのでは!?
そう思いながら拓海が居なくなったベッドに並んで腰掛けると無言のまま立ち尽くしていた未希を見た。
その嬉しそうな表情を見てこれまで起こった夢のような出来事が現実であることを知った!
拓海は彼らが本当に助けてくれるんだ・・・
2人、手を取り合いながら信じて待つことに決めた。
「未希よ、このままじゃと拓海くんが助かったとしても地球は消滅してしまうんじゃ意味が無い!」
3人が喜びのあまり、忘れてしまっていた事実を山神は再び突き付けると
「そなたが持つ魔法の力が是非とも必要なんじゃが儂らと一緒に来てはくれんか?」
頼まれても未希の答えは1つしか残されていない!
山神の言葉にしっかりと頷き
「拓海くんを救ってくれた神様だもん! どこにだって私はついて行くし何だってするわ」
決意に満ちた表情でそう答えた。
意味もわからない2人に琢磨が言った
「こいつはこの地球を救えるかも知れない、ただ1人の蒼き魔法使いなんですよ!」
琢磨がそう言った瞬間、未希は彼の頭を殴り
「さぁ、早く行きましょ!? 時間が無いんでしょ?」
拓海が助かるとわかったことで美希はいつもの彼女を取り戻したようであるが琢磨には厄介な話であった。
山神は琢磨と未希の会話に高笑いすると2人の肩に手を置き淳一と静香の前から消えてしまった・・・
2人は信じられないほどの現実を目の当たりに次々と見せられお互いの顔をつねると痛そうに手で擦った。
やはりこれは夢では無いのだ!
テレビを観るべく慌てて部屋を飛び出して行った。
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