第28話
「拓海くん!?」
失意のままに眠り込んでしまった未希は突然、そう叫んで目を覚ました!
起き上がった目の前に琢磨の顔があったので自分が発したであろう叫び声を聴かれて恥ずかしそうに俯く・・・
琢磨と花音はそんな未希を見て顔を見合わせホッと胸を撫で下ろした。
玄関のチャイムが鳴り応対に出た花音が未希の母である未来を連れて部屋に戻って来る
「未希、大丈夫?」
未来は娘に声を掛けると優しく抱き締めた・・・
母親の愛情に包まれた彼女のすすり泣く声が微かに聴こえて来ると琢磨と花音は部屋を静かに出て行く。
「話しは琢磨くんから電話で聞いたけどあなたのしたことは人として正しい選択だったと思うの!」
「あの宝石がとても大切なモノで特別な力を持ってることは下劣な手段であなたから奪った彼らの意図でもわかるけど自分の大事な人を助けたいと思う気持ちは決して間違ってなんかいないの!」
「ここで泣いてばかりいても拓海くんは喜ばないわよ!?」
「病気で苦しんでる人のそばに行ってあげなさい・・・彼はきっとあなたを待ってる!」
未来の言葉と想いは娘である未希の心に強く、そして深く貫くように響いた。
彼女はベッドから降りると
「お母さん、ありがとう!」
「私は行かなくちゃ、苦しいのは私じゃなくて拓海くんだもんね!?」
「こんなダメな私でもきっと待っててくれるよね?」
涙がこぼれ落ちそうにな顔で無理に笑顔を作りながらそう言った未希の涙をハンカチで拭いてやりながら
「どんなに辛くても信じて待つことが大事なのよ!」
未来は強い口調で言い聞かせるように言った。
未希は両手で目を擦りながら照れ笑いすると
「じゃあ行って来ます!」
元気な声で言いながら扉を開けて琢磨と花音にお礼を言うと玄関から飛び出して行った!
「拓海くんは死んだりしない!」
「きっと大丈夫!」
「絶対に死なせたりしない!」
何度も何度もそう言いながら走り、病院に向かう未希は空に異様な気配を感じて立ち止まり見上げた・・・
「何だろう? この悪意に満ちた空気!?」
嫌な予感に不安な気持ちでしばらく空を見ていたが拓海のことが気になり、また走り出した。
母親の未来も拓海の母である静香に未希をしばらく彼のそばに居させて欲しいと頼んでくれた
静香に異存があるはずも無く集中治療室のガラスに顔をくっつけるようにしながら未希は拓海を見ていた。
そんな彼女の一途な想いがわかる静香は夫である淳一の肩に両手を掛け自分たちの息子、拓海が元気で有ればこの娘と一緒にどれだけ幸せな毎日を過ごすことが出来るだろうと泣かずにはいられなかった・・・
その時、意識が戻った拓海に主治医の許可を受けた3人は彼のもとに行くと拓海の手を握る未希にその手を握る静香と淳一を見ながら彼は笑顔で話し始めた。
「お父さん、お母さん、こんな弱い僕を今まで支えてくれて生かしてくれて本当にありがとう!」
そう言った彼に2人は首を左右に振りながら優しく笑い懸けるだけであった。
「未希、僕は君と一緒にもっと話したかったし笑い合って過ごしたかったし、大切にしたかったけれどもう無理なのかなぁ・・・?」
哀しそうに微笑んだ拓海は未希の手を握り返したのだがその力はあまりに弱く、彼女の目に涙を溢れさせる
「僕はもっと生きていたい、君が僕にかけてくれた笑顔の魔法は僕に生きる価値と勇気を与えてくれる、とても素敵な魔法だった・・・ありがとう・・・」
そこまで言った拓海は力尽きたように目を閉じた。
生命維持装置の警報が激しい音で鳴り始める!
「ダメよ! もっと生きて! 私を独りにしないで!」
未希は彼の手を握り締め懸命に祈る・・・
「信じて待つことが大事」
彼女の母、未来が教えてくれた言葉を胸に少しでも長く彼がこの世に生き続けられるように呪文を何度も何度も繰り返し呟きながら懸命に祈った!
すると警報は止まり彼は微かに呼吸を始めた・・・
奇跡でも起きたのか!?
未希の一連の行動を見た静香は両手で口を押え、拓海が言った彼女の魔法は本物なのではないかと思った
未希が居てくれる限り、息子は死にはしない!
そう信じたかっただけなのかも知れないが奇跡は目の前で実際に起きたのだ。
「少しお話しをさせてもらってもいいですか?」
そんな未希たちの後ろで声が聴こえて振り返ると、そこには主治医と看護師、それに山神と琢磨も居る!
夜が完全に明け切った廊下では人々が何か大声で叫びながら慌ただしく走る姿が垣間見えていた。
一体、何が起こったのか!?
未希たちはまだ世界が破滅へと向かっていることを何も知らずにいたのである。
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