第27話
準備が出来たことを知らせる雄治からの連絡を受け源蔵は研究室にやって来た。
念の為に最終的な身体チェックを受診するとベッドに上がり横になり右肩をめくり剥き出しにする・・・
「多少は痛むかも知れませんが死ぬことは無いと思いますので我慢して下さい」
雄治はそう言ってベッドに備え付けてある革ベルトと鎖で厳重に彼を固定し始める。
「何だ!? そんなに痛いのか?」
源蔵が笑いながら尋ねると
「いや、恐らくこの薬が効けばこんなモノなど簡単に引き千切るでしょうから最後は社長の理性に懸けるしか私の命を守る手段は無いんですけどね!?」
雄治は真顔でそう言いながら作業を続ける。
「ではこれから投薬しますが取り敢えず最初の殺人衝動は社長の気力で抑え込んで下さい!」
「私も新世界にご一緒したいですからまだ死にたくはありません」
淡々とした口調で言うと薬品を注射器に吸い込む。
「感情のコントロールなら俺も幼い頃から今日までやり続けて来たんだ!」
「大丈夫だよ・・・多分な!?」
ポツリと呟くと雄治が差し出したマウスピースを咥えた源蔵は落ち着き払ったまま、目を閉じた。
肩を消毒した後に注射した雄治はあらかじめ設置して置いた頑丈な待避所の中に逃げ込むと鍵をかける!
「うおぉっ!」
物凄い唸り声を上げた源蔵はベッドに幾重にも巻き付けた太い鉄の鎖を簡単に引き千切るとベッドから起き上がり、掴んだベッドを床に固定されたボルトごと壁に勢いよく叩きつけた!
ベッドはコンクリート壁を突き破り向こうの部屋の壁に突き刺さり、原型を留めていない鉄くずと化した。
待避所の方に歩み寄った源蔵は鋼鉄製の分厚い鉄板を紙くずを破り捨てるように千切ると中で興味深そうに見ていた雄治をみつけると
「なかなか凄いではないか! 上出来だ」
そう言って離れると壊れた壁を更に壊して隣りの部屋に通り抜け、長椅子に腰掛けながら
「大丈夫だ! どれほどの力なのかを試してみただけだ」
平然とした顔で言うと笑いながら
「そこから早く出て来いよ」
源蔵は冗談っぽく言って雄治に手招きする。
「さすがですね! 社長の精神力と我慢強さには正直、驚きましたよ・・・物凄い身体になりましたね」
超人と言うに相応しい身体つきに変化した源蔵を研究者らしく珍しそうに観察しながら驚きの声をあげた。
「そのベッドもほんの軽く投げたつもりだったんだが意外と激しく飛んで行ったな!?」 「本気になったら俺一人で世界征服も出来そうな気分だぞ!」
源蔵は冗談のつもりで言ったのだろうが、この男の強欲さなら本当にやってしまうかも知れない・・・?
雄治はそう思いながらも
「過信は禁物です! どんなに強くとも不死身ではないですから気を付けて下さい!」
「圧倒的な力を優先する余り回復能力や蘇生能力が少し落ちるかも知れません!?」
結果に完璧を求める雄治は申し訳なさそうに言った。
「強さとは力だ! 力無き者は強き者に踏み潰されることをこれまで何度も見て来たし俺たちは強くなる為だけに生きて来たんじゃないか!?」
「新世界では俺たちの強さを虫けらどもに思い知らせてやろうじゃないか」
源蔵はそう言うと立ち上がり
「力も手に入れたしこれから最後の仕上げと行こうじゃないか!?」
「組員に集合を掛け、残りの魔法を使い切ってしまえば退屈過ぎるこの世界に興味は無い!」
「早いとこ最悪の災いとやらで消えてもらおう」
源蔵は雄治に言うとドアを蹴破りついて来るように合図しながらグチャグチャになった部屋を出て行った。
それから数日後、宝石の赤い部分を全て削り取り魔法を使い切ってしまった!
全体が青くなった宝石は一旦、真っ黒くなり不気味な煙みたいなモノを吐きだし、澄んだ蒼色に変わった。
吐き出された黒く悪意の塊のような煙は空に舞い上がり大きく拡がりながら消えて行った・・・
その翌日である!
テレビ番組は何処からともなく出現した月よりも巨大な惑星が地球へと接近しており、衝突するのは確実であることを告げるニュースばかりになった。
人類滅亡どころか、地球消滅!?
世界中が大パニックに陥るが、どこに逃げても同じで助かる術など無い!
神に祈る者、やり残したことを探して右往左往する者、諦めて動くことをやめる者、科学の力に頼る者、人々は失意のどん底に落ちてしまったのである。
「この蒼い石の塊は地球消滅の記念にお前にやろう!」
そう言って雄治に蒼くなった宝石を投げた源蔵はテレビのニュースで右往左往し逃げ惑う人々の映像や神に祈りを捧げる映像が流れるのを観ながら
「憐れな奴らだ・・・」
組員を全て中に通した後、笑いながら扉を閉めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます