第26話 「破滅へのシナリオ」
「どうなったんだ!? あいつは?」
写真やイラスト、書類などが散乱した机の奥にある回転椅子に座り、ゆっくりと回りながら源蔵は訊いた。
「注射で直接、薬物を体内に混入して後をつけさせたのですが案の定、そいつはあいつに見つかってしまい殺されたそうで殺されたそいつの後をつけさせていた男があ
いつの最後を見届けたそうです」
雄治の答えに源蔵は笑いながら
「追う者を更に追わせていたわけか?」
「相変わらず抜け目のない奴だな、お前という男は・・・」
源蔵はそう言うと立ち上がり雄治のもとへ歩み寄ると肩に手を置きながら
「お前のその顔じゃ実験は成功したようだな?」
肩に置いた手でポンと彼の背中を叩いて2人して更に奥の部屋へと入って行った。
部屋の中に入ると正面には見るからに頑丈そうな扉が有り、目の高さほどの位置にのぞき窓がある。
「この世界が滅ぶ時にどこから壊れるか、何が起こるのかもわからないからな!?」
「扉は頑丈なモノを選んで作ってみたんだが念の為、この中にもう一つある」
源蔵は新世界作りに夢中で、こちらの世界は最初から消滅させてしまう気なのだ!
ポケットから鍵を取り出すと鍵穴に差し込み扉を開いて薄暗い廊下を歩いて行くと、更にもう一つの扉を同じ鍵で開けて中に入った・・・
「向こうからは鍵が必要だがこちらの新世界から現実の古い世界に戻るには鍵も必要ない!」
「こちらが完成してしまえば戻る必要も場所も無くなるがな・・・」
笑いながら話す源蔵の後について行くと扉を閉めて殺風景な小部屋には不釣り合いな感のある豪華な扉を開けて、さながら王宮を思わせる広々としたフロアに出た。
「これだけあれば豪勢に暮らして行くには十分だろう?」
源蔵は満足そうに言いながら窓際に歩み寄ると雄治を手招きしながら呼び
「この川にはデカい魚をあしらってみたんだが暇を持て余すようだったら魚釣りでも楽しもうかと思ってな!?」
上機嫌で話す源蔵に
「永遠の命なんですから何がいくらあっても足りないでしょうが私も釣りは好きですから一緒にやりましょう」
笑顔でそう答えながら窓ガラスから下を見降ろした。
「ところで超人並みの力を手に入れる薬の研究は順調に進んでいるのか?」
「俺がその力を持てば銃などの物騒な代物はこの世界に必要ない!」
「そんなもんで暗殺でもされたら折角の快適な暮らしが台無しになるからな」
真顔でそう言った源蔵に
「まぁ、あいつの能力を凝縮したモノと考えて頂ければいいと思います、刀や弓などでは到底、太刀打ち出来るものじゃありませんからね!」
「本物の神でも現れない限りは社長を倒すことは絶対に不可能です」
雄治は自信を持って答えると
「私には身を守る魔法が有りますから薬は限界まで凝縮し、社長1人分ですでに完成しています!」
「いつでも都合の良い時に言って下さい、きっと驚くほどの能力を発揮しますから完全なる無敵ですよ」
雄治がそう言いながら笑うと源蔵は満足そうに頷きながら哄笑した。
「戦いが好きな社長は一体、この新世界にどんな人間を作られるんですか?」
「殺し合いや虐殺を楽しむには大勢の人間を作り出して置いた方がいいでしょうが余り複雑に絡み合わせると困ったことになりはしませんか!?」
源蔵がこの世界に混沌の戦国時代を築こうとしてることを知っている雄治は言った。
「それもそうだな、じゃあ可愛い女が皆を引き連れて俺に抵抗して来るってのはどうだ!?」
「生かさず殺さずで苦しむ姿を眺めるのも退屈しのぎには悪くない!」
「少しは腕の立つ奴らも付けてその気にさせてやろう」
何とも悪趣味な発想だが源蔵はそんなことを言った後、
「超人となった俺の恐ろしさを十分に思い知らせた後にたっぷりと可愛がって楽しみながら殺してやろか?」
「名前はそうだなぁ・・・クラリスとでもするかな!?」
何を想像してるのかは明らかだが雄治はそう言って笑う源蔵の底知れぬ怖ろしさに愛想笑いを返しただけでそれ以上は何も言わなかった。
「宝石の魔法の力も残り少なくなって来たからそろそろお前が暮らす場所も望み通りに作ってやろう!」
「その後は楽しみながら殺す蛆虫どもを作ってこの宝石を削ってしまえばもと居た世界も終わりだ!」
「俺を執拗に追い回した警察の奴らが絶望の中で死ぬ場面を見られないのは残念だがな」
そう言った源蔵を見ながら、この男こそ悪魔そのものでこの新しい世界の支配者として君臨する様子を見ながら暮らすのも楽しかろうと雄治は思った。
「さあ、帰って続きでも作るとするか!?」
源蔵はポケットから出した宝石を眺めながら歩き出す・・・
その宝石は殆んどが蒼く不気味に輝いていた。
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