第25話
振り向いた彼は結に向かって悲しく微笑んだ
この世で最後に会った人間が自分を捕まえに来た刑事とは最初から最後まで運が無い・・・
だが自分の手で終わらせなければならない彼はここで彼女に捕まる訳には行かないのだ。
それでも少しだけ話してみたくて彼女が近くまで歩いて来るのを待った・・・
「あなたはそこから飛び降りるつもり!?」
彼の表情とこの状況を考えればわかっていることなのだが話すきっかけを作りたくて尋ねてみた。
「僕は言われるままに多くの人の命を奪っただけでなく、その体まで食べてしまった!」
「僕の体も西岡に注射された薬物で腐り始めているみたいだ・・・」
彼はそう言って両手を開いて見せると、その指先は千切れたように欠けてしまっていた。
「僕が罪を償うには自分で命を絶つしかない! それでも償い切れないけれど残された時間はもう無いんだ」
そんな彼の言葉に結は何度も頷きながら
「あなたに人を殺せと言ったのは倉田と西岡でしょ!?・・・でもナゼ彼らの命令にしたがったの?」
彼女は1歩、近付きながら彼に問い掛けた。
「彼らに愛されたかった!」
「彼らの言う通りにすれば褒めてくれたし頭を撫でながら抱き締めてくれた」
そう言った彼の目から涙がこぼれ落ちる。
「だけど彼らの愛情は偽物で僕は彼らに利用されていただけなんだと殺して食べてしまった和樹くんと和也くんの兄弟が教えてくれて知りました!」
「結局、僕は神にはなれない化け物で誰からも愛されないんですよね?」
悲しそうに言った彼に結は首を振りながら
「あなたはそれでも彼らを恨まないの!?」
彼女の言葉に大きく頷いた彼は
「人を恨んでも何も得られないしやり直すことは許されない・・・時間は巻き戻せないし殺してしまった人は二度と戻っては来ない・・・愚かだった僕が悪いのです!」
微笑んで結に一礼すると彼はそこから飛び降りた。
慌てて走り込んだ結は手摺りに右手を掛けながら落ちて行く彼の右手を辛うじて掴んで止めた!
歯を食い縛りながら彼の右手を離すまいとする結と彼女を見上げながら助かろうとする意志が無い彼・・・
反動で左右にゆっくりと揺れながら時が過ぎる。
「まだ死ぬと決まったわけじゃないわ!」
「きっとやり直すことも神様にだってきっとなれるわよ!」
「生きて償わなきゃ意味ないでしょ!? お願い! 私の手に掴まって頂戴!」
必死に叫ぶ結の目からこぼれ落ちた涙が彼の顔に落ちて濡らしてゆく。
「ありがとう・・・最後に優しい人に会えて良かった!」
嬉しそうな微笑みとその言葉を残しながら彼女の手から離れた彼の体は地面を目掛け落ちて行き、ドサッ!っと激しい音で激突した!
素早く立ち上がった結は階段に向かおうと振り向いたその先に山神の姿があった
「そこに居たのにナゼ、彼を助けてくれなかったの!?」
涙で濡れた彼女の瞳は山神を責めるような目でみつめながら訴えた!
「死んで行く者の最後の願いを訊いてやるのも生きて行く者の責任じゃろう?」
「彼は汚れ切った2人の人間により神とはなれなかったが最後に己が罪を償い、人として死ぬことが出来た・・・」
「そなたという優しい人に出会えたのじゃから救われたに違いない!」
「良かったではないか・・・」
山神が優しくそう諭すと彼女はその場に泣き崩れた。
「罪を憎んで人を憎まず・・・」
細胞が破壊され塵となり着ていた服だけが残された落下地点で手を合わせながら山神は呟くと
「・・・とは言っても奴ら2人をこのまま放って置くわけにも行かんじゃろう?」
必「ずその報いは受けてもらわねばな!?」
山神はそう言いながら残された服を綺麗にたたみ両手の上で息を吹き掛けた。
その衣服は細かな粒子となり風に乗ってどこかにキラキラと輝きながら飛んで消えた・・・
「あの2人を法律で裁くには生ぬるかろう! 神として奴らを二度と生まれ変われぬ地獄に送ってやろう」
山神は結の肩を優しくポンと叩くと歩き出した。
涙を袖で拭った結も山神の後を追って歩き出す
あとはこの頼れる神様に任せればきっと何とかしてくれると彼女の後ろ姿は確信を抱いているように見えた。
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