第24話
自らの死を悟った彼は目が合った結を無視して街の方角へと急ぎ足で向かった。
もう時間があまり残されていない・・・
体の異変はそれを彼に伝えるように痛みが増す!
人間とは違う化け物だとわかっていた
それでも誰かに愛されたくて初めて出会ったあの2人に忠節を尽くし愛して欲しいと願い続けた。
そんな彼の切なく哀しい想いは2人に届くことなく、もう彼に残された時間は残り少ない!
ならば人間らしく自分が犯した罪を償う為にせめて自分の手で死にたい・・・
前方に見える高いビルを見ながら彼はそう決めていた。
結は彼と目が合った瞬間、思わず立ち止まってしまったが急ぎ足で歩き始めたのを見て彼が姿を現した小道へと走った!
そこで見たのは首から上が無い死体であった・・・
正確に言うなら頭が潰れてしまい無残に転がっている人間だったと思われる死体である。
彼女は直属の上司である佐藤涼介に連絡すると例の少年を追っている事情を説明し、その現場を離れると急いで彼の後を追って走り出した。
彼の足取りはそれほど速くなっていたのである!
見当をつけて走って行くと運良く彼が半ば小走りで進んで行く後ろ姿を発見し見失わない程度の距離を保ちながら後をついて行く・・・
彼女は再び携帯をポケットから取り出すと兼ねてからの打ち合わせ通りに琢磨へと連絡する。
拓海の病状も思わしくなく、大切なモノまで奪われてしまったショックで憔悴が著しい美希が心配で付きっ切りの琢磨は代わりに山神様を向かわせるからくれぐれも無茶はしないようにと念を押した。
携帯での会話を聴いていた山神は琢磨の肩をポンと叩くと部屋の窓を開けて1羽の鳥へと変身し、そのまま飛び去ってしまった!
琢磨は開いたままの窓を閉めるとベッドに横たわる未希を心配そうな表情で見るが彼女に掛ける言葉がみつからないまま、苦悶の表情に変わる。
それは未希のすぐそばで見守る花音も同じ気持ちであったが今は急ぎこちらに向かっている母親である未来に任せるしか方法が無かったのである。
一方、彼の体内で細胞が分裂し破壊されて行く度に遠い過去の記憶が弾けるように思い出されていた。
僕の本当の父は信仰心を失くし忘れてしまった人間への復讐の為に悪逆非道の限りを尽くし善という心によってこの世から抹消された!
そんな父の願いはこの僕に正しく生きて人間の為に偉大な功績を残し、再び神として祀られることではなかったのだろうか!?
だが負の連鎖は彼にまで引き継がれてしまったのだ。
次第に痛みが激痛へと変わって行くに連れ彼の顔は苦痛に歪み始める
しかし自分で自分への決着をつけたいと願う彼の歩調は変わらず、高いビルの入口へと辿り着いた!
人が利用するエレベーターを使わず階段の方へと向かい手摺りに掴まりながら上り始める。
その不審な動きに警戒した警備員が近づこうとするのを急いで後を追って来た結が警察手帳を見せ、制止すると扉を開けて彼の後を再び追い掛け階段を上って行く!
上りながら見上げると彼が手摺りに掴まり先を急いでいる様子が伺えた。
時折り苦しいのか、苦悶の声が彼女の耳にも聴こえるが追い掛けながら観察した限りでは凶悪な怪物というより憐れな青年という感じがしていた・・・
あの様子では何かが彼の身に起こり、かなり衰弱して来ているのかも知れない!
「それでも決して油断してはいけない!」
結は自分にそう言い聞かせると時々、何処を目指しているのかわからないが上って行く彼の様子を伺いながら用心深く後をついて行く。
やがてようやく屋上への出口に辿り着いた彼は鍵が掛けられた鉄製の扉を蹴り破った!
この季節にしては涼やかな風が彼の頬を撫でながら流れ込んで来る。
屋上へと出た彼は落下防止の為に設けてあるステンレス製の手摺りを最後の力を振り絞り捻じ曲げ、屋上から下を見下ろせる位置まで進むと腐ったようにボロボロになり欠けてしまった指先をみつめながら溜息を漏らす。
「待って!・・・ちょっと待って!」
その時、彼の耳に届いたのは結の声だった。
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