第23話
研究所を出て歩き始めたが何だか体が重く感じる!?
それが雄治の注射が原因だとは気づかなかった。
これまで両親と思い込んでいる2人に命じられ、数々の殺人を繰り返して来た彼であったが元々は無垢な心を持っており、しかも生まれてまだ数年しか経っていないのだから人の心の醜さなど知る由もない!
親に災いをもたらすから殺した・・・
彼の心の中に有るものは源蔵と雄治という最悪の両親に対する健気な愛情表現だったのだ。
2人から教えられ続けた物事の善悪
その根本的なものが間違っているのだから彼が思い込んでいる善とは世の中でいう悪なのだ!
以前、河原で無残に殺し、喰ってしまった純真な2人の子供の情念が頭の中で常に現れるようになり彼の思考は掻き乱され気分が優れない状態になっていた。
だが源蔵と雄治によって誰とも関わりを持つことなく半ば空想の世界で生きて来た彼にそれほど多くの知識も無く、物事の善悪を判断する常識の欠片さえ無い!
生まれた場所、初めて触れた人間が悪かったのだ。
常識では存在しない彼を常識で動いている世の中で理解することなど不可能で有り、彼は世間で言う犯罪者!
数多くの殺人事件を引き起こした連続殺人犯である。
彼が密かに住む家の前にあの女性刑事が居た
まだ距離的には相当な距離があるのだが彼の視力を持ってすればハッキリと確認出来た!
彼は迷った・・・迷った瞬間に歩く方向を変えた
誰かが自分の後をつけて来ていると彼が気づいたのはその瞬間であった。
その男はいつか研究所の中で見掛けたことがある・・・
もしかして研究所からずっと僕の後をつけて来ているのだろうか?・・・一体、ナゼ!?
雄治が心配してくれて誰かに命じたのなら一緒に行くか後をついて来るにしても慌てて身を隠す必要など無いのではなかろうか?
数々の疑問符が彼の脳内を交錯する。
一方、彼の家の前で張り込んでいた結は微かに見えた人物が急に方向を変えて歩き出したのを見て自分が今日まで探していた彼だと直感した!
張り込みを続けている間に何度か見掛けたことはあるのだがいつも単独ではなく、源蔵や雄治と一緒だったので彼が1人になる時を待っていたのだ。
結は彼が人間の能力を遥かに超えた存在で有ることを熟知しているので彼に自分の姿が見えて方向を変えたのだとわかっていた。
自分など敵の数には入らないはずなのにナゼ逃げた?
彼女は彼の突然の方向転換を逃げたと判断した・・・
漠然と考えていた通り、1対1ならば何とか彼と会話が出来るのではないか!?
そう思っていた結は慌てて彼の方に向かい歩き出した。
彼はつける男の気配を背中で感じながらゆっくりと帰る家とは違う方向に歩き続けた。
ナゼ、後をつけて来るのかを訊きたかったのだ!
適当な場所が無いか見定めながら素知らぬ振りで歩いて行く彼の姿は男にとって気まぐれで歩く方向を変えたようにでも見えたのだろう?
その男は距離をある程度、置きながら彼の後を追う。
体の不調は時間が増すたびにひどくなって来ていた
「きっとお前はあいつに騙されたんだよ!」
「何か毒薬みたいなモノを注射されたんじゃない!?」
頭の中で2人の兄弟が彼に話し掛ける・・・
「僕のお父さんなんだぞ! そんなことしないよ」
そう答えたものの彼らの言ってることは正しいと思い始めるほど明らかにこの症状はおかしい!
彼は小道に曲がると塀沿いに立った電柱の陰に隠れた。
何も知らずに男は彼が曲がった小道に入って来た
「ナゼ僕の後をつけて来るんだ!」
「お父さんが僕の死ぬのを見届けて来いとでも言ったのか!?」
いきなり胸ぐらを掴まれ、塀に叩きつけるように抑え込まれた男は驚愕と恐怖の表情を浮かべながら
「そ、そ、そうです!」
突然の出来事と図星を刺されたことに対する恐怖で男は真実を口にしてしまった。
嘲笑というより悲しそうに笑った彼は無言のまま、男の顔面に拳を叩き込んだ!
跡形も無く潰れた頭を残した男は小刻みな痙攣を数回、繰り返したのちに息絶える・・・
彼は血で汚れた手を男の服に擦り付けると抑えた手を放し、小道から出た所で追って来た結と目が合った。
背後で塀から無残な死体の崩れ落ちる音が聴こえた。
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