第21話 「許されない者」

厳重に隔離された一室で源蔵と雄治は密談していた

「思ったより簡単に手に入ったな!?」

部屋の照明に赤い宝石を透かしながら源蔵は言った。


「まぁ、ああ言われちゃ断るに断れないですからね」

美希が浮かべた悔しそうな表情を思い出したのか?

そう言った雄治は手元に置いた分厚く古い書物をめくりながら微かに笑っているようにも見える。


「人の手から手に継承されるうちにこの魔法の宝石の使い方が忘れ去られるのを危惧したのか、こんな物を残して置いてくれるとは有り難いです」

尚もページをめくりながら雄治は言ったがふと、その手を止めると

「ここに書いて有りますが、やはりその宝石に間違いないと思います」

源蔵の前に書物を差し出し書いてある文章を訳しながら読んで聞かせた。


「なるほど、これが違う世界を創造する魔法の石か!?」

そう答えた源蔵はテーブルに置いてあるケースに宝石を置きながら雄治の説明を興味深そうに聞いていたが

「削って呪文を唱えるだけだなんていかにも簡単そうじゃないか?」

「ちょっとだけ削って試してみるか!?」

胸元からナイフを取り出すとそう言った。


何が起こるかわからない・・・!?

そんな状況に於いてもこの男は平然と命を懸ける!

自分の命をさほど重要視していないのだがその欲深さは計り知れないほどで他人の命などは何の価値さえ認めてはいない。


雄治はそんな源蔵という男を知り尽くしている!

「やってみるか・・・?」

雄治は心の中でそう呟くと置かれた書物のあるページを開くと源蔵に無言で合図を送り、静かな口調でゆっくりと読み始めた。


魔法の呪文なのか!?

部屋の中の空気は張りつめた緊張と呪文が奏でる異様なフインキに包まれる・・・!


やがて2人の周囲にバチバチと細かい稲妻のような次元の歪みらしきモノが現れ始めると源蔵は手に持った宝石の表面をナイフで少しずつ削りはじめた。


意外と柔らかい物で出来ているのか?

唱えた呪文によって柔らかくなってしまったのかは2人にもわからなかったが削られて粉状に落ちた宝石の欠片は次元の歪みと呼応するかのように広がり、ちょっとした空地みたいな光景を生み出して行く。


建物も樹木も人も何も存在しない、茶色の土が剥き出しになった300メートルぐらいの円状に広がった大地に2人はポツンと立っていた・・・


「削った量が少なかったのか?」

源蔵は手に持った宝石を眺めながら雄治に尋ねた

「いいえ、最初はこんな感じでいいのではないかと思いますが豪邸とか美女たちとか他に何か想像出来なかったんですか!? ここには何も有りませんよ」

冗談っぽく言いながらも雄治は広がった世界の中を興味深そうに眺めながら端まで歩いて行くと壁に触れながら1周して源蔵の元に戻って来た。


「何をして来たんだ?」

雄治の行動をその場で動かず見ていた源蔵は隣りに戻って書物を広げた彼に訊いた。


「これに寄ると私たちが暮らす現世とつながる扉みたいな物を設置出来るようです!」

「扉が有れば私たちが住む世界と、この世界を魔法の呪文無しで自由に往来すること

が出来るみたいですから次に来る時は忘れずに頭の中で描いて下さい」

雄治が書物に描かれた絵を見せながら説明すると

「そうなのか? じゃあ次はもっとこれをたくさん削ってこの世界をもっと大きく広げてやろう!」

「快適に過ごせる王宮みたいな場所も必要だな、そこに行き来出来る扉を設置して美女や召使いも置くとするか!?」

「処刑用の人間も作らないと娯楽がないな」

そう言って笑う源蔵の言葉を書物の上に置いたメモ帳に書きとめながら雄治も笑う。


「その宝石は削り過ぎると青い部分が見えて来るそうでその青い部分を更に削ると我々が住む世界を消滅させるような災いが降り懸かるそうです」

そう言った雄治に

「俺が思いのまま、自由に暮らせる場所が作れりゃ元の世界なんか必要ないだろう!」

「この世界に居れば不老不死で永遠に楽しめるわけだ・・・楽しみが増えたぞ」

源蔵の頭の中には自分以外の行く末など何も存在していないのだろう?

愉しげに笑いながら上機嫌で言った。


「では元の世界に帰ってから綿密に計画を立て、永遠に暮らしても退屈しないような世界を築き上げることにしましょう」

雄治は源蔵にそう言うと彼が頷くのを確認し書物に書かれた呪文を読み、唱えはじめた。


やがて2人が消えた後には音も無く時間も存在しない世界が取り残されているだけであった・・・

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