第19話
細かく降る雨はいつの間にか雪に変わっていた。
拓海が襲われたあの日から病状は思わしくなく彼は特別治療室へと移され静かに眠っていた。
彼の病状が心配でたまらない未希には眠っている拓海の目が2度と開かないのではないかと心配で瞼に涙が浮かびこぼれ落ちそうになる・・・
そんな彼女の肩に優しく手を置いた拓海の母親の静香も心配そうな顔で息子の姿を黙ったままみつめていた。
病院を後にしながら歩く未希の心は悲しみに包まれたままでその足取りも重かった
陸橋の上から拓海が居る病院に向かい未希は魔法を唱えながら毎日、彼の回復を祈っていたのだがいくら魔法使いと言えども病気についての知識が無い彼女にはどんな魔法を使えばいいのかがわからなかった。
「元気になーれ!」
魔法とはそんな単純なものではなく、具体的に何をどうすればいいのかがわからなければ意味が無い。
未希は拓海の病気について調べ理解しようと努力していたのだが現代医学でさえ解明不可能な病気である為に彼女の頑張りは何も成果を得られなかった。
静香に連れられて訪れた病室で拓海の笑顔を久し振りに見た彼女は泣きそうなくらいとても嬉しかった!
彼からの通知が届くと携帯を手のひらで包み込むように彼の無事と回復を祈った。
彼女にとって彼は友達以上の感情を抱く大切な人となっていたのだ!
それは彼である拓海も同じ気持ちだったのだが2人はまだそれに気づいてはいなかった。
風に揺れながら落ちて来る雪をそんな想いを浮かべながら帰り道を急ぐ未希の前に突然、現れた人影があった!
傘を上げて見ると2人の男が立っている・・・
どう見てもいい人とは思えないその2人は源蔵と雄治であったのだが未希は彼らをまだ知らない。
「学校の帰りにしてはちょっと遅いようだがまた病院にでもお見舞いに行ってたのかな?」
野太い声のがっしりした男の問い掛けに彼女は咄嗟にポケットに入った小さな杖を握り身構える!
その声の主は源蔵であった。
隣りに立つ男は冷酷そうな表情を浮かべたまま、未希の様子を探るような鋭い目で見ていた・・・雄治である。
「お前が今、その右手に隠し持ってるのが魔法の杖ってヤツなのか!?」
「そんな物騒なもんを振り回して俺たちが住んでるこの世界を捻じ曲げてるってことか」
そう言いながら源蔵は隣りに立つ雄治を見ながら2人して何やら意味深な含み笑いをする。
その様子を見た未希はそれが源蔵の罠であることに気づかないまま、何のことかわからず怪訝そうな表情を浮かべた・・・
それをちらりと見た源蔵は未希に向き直ると
「そもそもお前が使ってる魔法のお蔭でこの世界に歪が生じてお前の大事な彼氏はあんな病気になってしまったんだろうが?」
「今更、それをお前が治そうって思ってもちょっと都合良過ぎじゃないとは思わないか?」
源蔵が言ったことは勿論、全くのデタラメである!
しかしその言葉は拓海を一途に恋する未希の心を確実に追い詰め揺さ振った。
雄治が描いた悪知恵と源蔵が使う巧みな話術に未希の心はぐちゃぐちゃに掻き乱されてしまったのだ!
動揺する彼女に源蔵は更に語り掛ける。
「お前が持ってる魔法の杖に俺は興味がないが首にぶら下げてる宝石にはちと興味があってなぁ・・・」
さも優しげに話しているが源蔵の意図は明らかだ!
「その宝石は魔女が金に困った時に使う高価な宝石に過ぎないのだがそれを俺に渡してくれたらお前の彼氏の病気を治してやっても構わないぞ」
彼女の表情を観察しながら源蔵は言った。
源蔵の言葉に未希は胸の宝石を左手で握り締めながら必死で何かと闘ってるような困惑の表情を浮かべた。
拓海くんが病気になったのは私が魔法を使ったから?
もう1人の方は魔法を使えるみたいだけどこの人たちは拓海くんの病気を治せるの?・・・この宝石をこの人たちに渡せばホントに治してくれるの!?
拓海の悪化する病状を見て来たばかりの彼女には源蔵の言葉にすがりたい思いが強く芽生えていた。
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