第18話

「あぁ、結さん! どうしたんですか?」

チャイムの音に玄関を出た琢磨は言った。


「近くを通り掛かったからちょっと寄ってみたの」

彼の問い掛けに答えるように彼女が言うと

「そうじゃなくて結さんがそんな暗い顔をするなんて俺は初めて見たから驚いたんですよ! さぁ中にどうぞ」

笑顔でそう言うと門扉を開き玄関の扉を開けると中に向かって声を掛けた。


花音に声を掛けたのだろう・・・

すぐに出て来た花音は琢磨と一緒に結を歓迎した。


「同僚の方の容態でも悪いのですか?」

「それとも何か手に負えないことでも有りましたか!?」

挨拶や近況などを話した後に琢磨ではなく花音の方から結に訊いた

きっと話しにくいことでも有るのではないかと思った彼女の結に対する配慮だったのだろう。


最近は夫の琢磨がお風呂から消えたりトイレに入ったまま突然、居なくなったりするのだが彼はその理由を花音に全て隠さず話していたので彼女は今回のことについてある程度は知っていた。


「実は琢磨さんの話から数年前に起きた潜入捜査官が自殺した件を思い出して現場へと足を運んでみたの」

昔、ともに信じられないような敵を相手に戦った仲間でもあり2人より結の方が若干、年上である為に話し始めると何となく2人には気軽に話せてしまう。


「そこでドリームクラッシュというふざけた名前の会社まで設立して同じ名前の麻薬を製造し流通させてる倉田と西岡って男に会ったんだけど2人の他に青年が1人、一緒に居たのよ」

結は鞄から大型の手帳と筆記具を取り出し少しでもわかり易いように書き出しながら話し続けた。


「その青年っていうのが琢磨くんが戦った相手だと私の直感ではそう思うわ!」

「あの得体の知れない恐怖感は前に体験した黒蛇のそれに似ていた・・・」

「私があそこに辿り着いたことを知った倉田は必ず何かを仕掛けて来る!」

「あの男はそういう危険な男で人の心みたいな物は一切、持ってない悪魔みたいな奴なの」

話す結の口調は段々と熱を帯びて来る。


「西岡も魔法みたいなモノを使うけど問題はその能力ではなく、あいつの悪知恵と知識と魔法によって作り出してるらしいドリームクラッシュという麻薬よ!」

「どんな製造方法をやってるのかが科学的に調べてみてもわからなくて人を怪物にしてしまう怖ろしい麻薬なの」


「今回の相手は力だけでは勝てない厄介な相手で色んな手段を使ってくるから守るのも難しい!」

「待っていたらそれこそ誰か犠牲者が出て来ると思うからまずはあの危険な青年から何とかしなきゃいけない」

結は椅子から立ち上がると

「琢磨くん、どうかあなたの力を貸して下さい!」

そう言って深々と頭を下げ頼んだ。


黙ったまま結の話を真剣に聞いていた2人は頭を下げた彼女を見ると慌てて立ち上がった。


「それじゃあ儂の力も必要じゃろうて」

何かを言い掛けた2人の隣りから突然、声がしたかと思うと懐かしい姿が煙のように現れた!

いつもの甲冑姿ではなくシックなジャケット姿の山神である・・・その足下にはココアの姿もあった。


「なんだ爺さんか? その恰好はどうしたんだ」

琢磨が山神に尋ねると

「爺さんとは何じゃ!? この通りまだ若いじゃろうが?」

「前回の件で儂も神の中で出世したんじゃよ!」

「この恰好だったらどこを歩いておっても差し障りなかろうが?」

山神は若い男の姿とファッションを自慢げに見せる。


「まぁその恰好はどうでもいいんだけど爺さんが手伝ってくれると助かるよ!」

「今回の敵は黒蛇の子供で力はそれほどでもないけど後ろで操ってる奴らが悪知恵が回るからとてもやっかいらしい」

琢磨がファッションには興味なさそうに説明すると

「じゃからお前はいつまで経ってもバカなんじゃ・・・」

「相手が弱いんじゃなくてお前が強くなったんじゃよ!」

山神は琢磨の説明に呆れながら言った。


2人の会話を聴いていた花音と結はついに堪え切れず、笑い出してしまった。


「このココアと爺さんの嫁さんはどうしたんだい?」

琢磨がココアの頭を懐かしそうに撫でながら聞くと

「あぁシルヴィアか? あいつは儂よりもっと上級の神なんで難しい仕事をしておるわい、ココアは寿命を全うしたんで儂の相棒にした!」

「賢くてきっと役に立つじゃろう」

そう言った山神は椅子に腰掛けると

「じゃあ、今後の計画と分担を決めようではないか」

ココアとじゃれ合う琢磨を優しい眼差しで眺めながら話し合いの再開を促した。

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