第17話
「確か、この辺だったと思うけど・・・」
城崎 健が刺されて入院治療中である為に佐倉 結は単独で捜査していた。
危険な相手であることを知っている健は単独捜査に反対したのだが警察官である以上、怖いからといって捜査を途中で休むなど出来ない!
「人では無いが人に近い・・・?」
琢磨の言葉が結に以前、起こった事件と言うか事故を記憶に甦らせていたのだった。
2階のベランダから下ろしたロープで首を吊り自殺した潜入捜査官!
恐らく2階のベランダで首にロープを掛けて階下に飛び降りたのだと推測されたが現場に立ち会った家族の様子に結は何となく疑問を感じていたのだ。
御主人が自殺を図ったことに奥さんは動揺していたのだろうが、その表情には恐怖の色が濃く滲み出ていた!
人では無く、何か化け物を見ているような目で怯えていたのだがその視線の先はご主人のぶら下がった遺体では無く自分の子供に向けられていたのだ。
なぜ、我が子をそんなに怖がる!?
結はそう思ったが現場には第一発見者であるという子供の足跡だけしか残ってなくて不審な点は何一つ見当たらなかったのだがどこか変だった。
自殺したと思われる捜査官は体格も大きく柔道や空手の有段者でもある!
そんな相手を子供が首にロープを巻き付けてベランダから投げ落とすなど、どう考えても無理なことだった。
「加藤・・・」
表札を確認した結は門扉を開き中に入ってみる
あの事件のあと2人のお子さんが河川敷で行方不明になり、警察に寄る大捜索で2人のものと思われる大量の血液が散乱した現場がみつかったが死体はなく残された血液の量から推測して死亡しているものと判断された。
母親もこの家で同じように致死量に達するほどの血液だけが残されたまま行方がわからなくなった!
それ以来、この家は誰も住む者も無く放置されてるようなのだが物件の持ち主を調べた所、何とあの倉田 源造なのである。
どう考えても辿り着く答えは一つ!
源蔵の組織に紛れ込み潜入捜査を行っていた彼を源蔵が何らかのやり方で殺害し秘密保持の為にこの家を買い取った・・・結にはそうとしか思えなかった。
庭には雑草が生い茂って家も荒れ果てているのだろうと予想していた結に反して庭は綺麗に手入れされ花壇には花も植えられ咲いている
家の中もガラス越しに見てみると家具なども揃っていて綺麗に掃除されているのがわかる。
誰かがここに住んでいるとしか思えない・・・
「何かここに用件でも有るのかな?」
背後から声を掛けられ驚いて振り向くとそこには源蔵と雄治、そして見知らぬ青年が立っていた。
「ここは私有地なんで警察の方と言えども勝手に入られて詮索されても困るんですが迷子にでもなったかな?」
源蔵が冗談っぽく笑顔を交えて問い掛けて来た。
「いえ、ちょっと立ち寄ってみただけです!」
「ここには誰かが住んでらっしゃるのですか?」
この街を汚す張本人である源蔵に敬語などは使いたくは無いのだが結は丁寧な口調で尋ねた。
「放って置くのも勿体ないから手入れだけはしてるんですがあんな事件があった物件ですからねぇ・・・それより何か以前のことで調べているんですか?」
源蔵は鋭く人を探るような視線で結を見ながらも言葉は普通に訊いて来る!
何かを隠してると直感した結は
「いえ、あれは自殺で解決済みです! 通り掛かったら綺麗に維持してあるので誰か住んでいるのかと思って立ち寄っただけですからこれで失礼します」
この場に長く居るのはマズイと思い立ち去る。
「もう帰るんですか? ゆっくりして行けばいいのに、何だったら俺が送ってあげましょうか?」
歩き去る結の背後から源蔵がそう言って高笑いするが背後からでも襲われかねない!
それが源蔵と雄治という男たちなのだ。
しばらく急ぎ足でそこから離れた結は立ち止まると大きく息を吐いた・・・怖かったのである
それにしてもあの若い男は誰なんだろう?
源蔵と雄治も怖い存在に違いないのだがあの青年の存在には何かとてつもない恐怖を感じる!
何だか人間のようで人間ではない暗い影みたいな・・・
その存在が怖くて急ぎここまで歩いて来たのだ。
そう言えば琢磨が言っていた「人では無いが人に近い」というのはまさかあの青年がそうなのか!?
結の記憶の中であの現場で見た幼い子供の存在とさっき見た青年の存在が重なって行く!
数年しか経っていないのだから同じ人間でないのは明らかなのだが人間じゃないとしたら・・・?
あんな小さな子供が青年へと成長しているとすればあの時に感じた違和感の謎も納得が行く・・・
自殺したのではなく、きっと殺されたのだ!
子供でも病院で琢磨が戦った怪物だったとすれば大人の強者でも簡単に殺せるであろう!?
何も証拠はなく現実離れした話で誰も信じないだろうが結は確信した。
だがそれがわかったとてどうする!?
相手は想像を絶する怪物なのだ・・・!
調べると言っても証拠も無しに調べることは出来ない。
色んなことを考えながら途方に暮れて結が向かっていた場所は琢磨が住んでいる家だった・・・
この時、彼女が選んだ道は正しかったと言える。
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