第16話 「悪魔のような男たち」


「それでどうなんだ? 何かわかってきたのか」

源蔵は隣りを歩く雄治にやや小声で尋ねた。


彼ら2人の前には両手を広げてグルグル回りながら飛行機になったつもりで活発にはしゃぐ子供が居る・・・

歳の頃は幼稚園児ぐらいであろうか?

あの日、不可思議な卵から生まれた子供だった。


あれからまだ1年にも満たないのだが、もうこの成長である・・・明らかに人間とは違っていた!


「時々、怒りを表すんですが身体が爬虫類みたいな鱗に覆われた化け物に変わるんですよ」

「そうなると普段の力とは別の異常な力を発揮します!」

「まだ子供なんで異常と言っても大人が3人ほど本気で掛かれば対応出来るのですが先日、うちの研究員があの子に殺され喰われてしまいました・・・」

「後で身元をよく調べてみたら潜入捜査官だったようで逆に助かりましたよ」


笑い顔でそう言いながら答えた雄治は走るのが異常に速い為、遠くに離れそうになる子供に

「遠くに離れたらダメだって教えてるだろ!?」

「走りたいんならお父さんとお母さんの周りを走るんだ!」

厳しい口調でそう言うと子供はすぐに駆け戻り、2人の周りを楽しそうに回り始めた。


「何だかリモコンのオモチャみたいで面白いな、俺が母親でお前が父親ってのが気に食わんが役に立ちそうじゃないか?」

「それでこいつは人を餌にしてるのか!?」

「人間を餌にしてるんならその辺にうろついてる奴らを捕まえてくりゃいいから安上がりだな」

冗談とも本気とも判断しようがない口調で源蔵が言う。


「社長が研究所に顔を出してあの子に優しい言葉を掛けるんで鵜呑みにしてるんですよ」

雄治は一瞬、笑顔を見せながらそう言うと

「そのことがあってわかったんですがあの子は自分が食した相手の記憶などを一部、共有するみたいなんです」


そこまで言った雄治は狡賢そうな表情を浮かべ

「どれくらい記憶を共有出来るかまだ確たるものは掴めてないんですが秘密を手に入れる為に殺させて食わせれば簡単に手に入るなんてことも出来るかも知れません?」

そう言って源蔵の反応を見るべく様子を伺った。


「それは面白いじゃないか!?」

「喰った相手の記憶を共有出来るなんてまさに願ったり叶ったりだな!」

「俺もどんな感じになるのか見てみたいものだ」

俄然、興味を示した源蔵は立ち止まって周囲を見回すと探していたものをみつけたのか、遠巻きに周囲で見張っていた部下の1人を手招きし指示を与えた。


与えられた部下は急ぎ他の者を集めると方々に散り人が近づかないよう広範囲に渡って警戒し始めた!

冷酷な笑顔そのもので見ている源蔵の視線の先には小学校の低学年であると思われる子供2人が川縁で仲良く遊んでいる姿があった。


「社長、まさかここであの子供たちをあの子に襲わせるつもりなんですか!?」

半ば呆れたように雄治は源蔵に問い掛けるがその表情には期待感が現れていた。


源蔵は相変わらず飛行機のマネをしながら元気に走り回る子供を満面の優しい笑顔で呼ぶと困り顔で言う

「あそこで遊んでる子供たちにお母さんはお前のお母さんじゃ無いと言って苛められたんだけどお前があそこに行ってお母さんだよと言ってくれないか?」

「それでも違うと言われたらあいつらは悪い奴だ! 殺して喰ってもお母さんが褒めてあげるよ」

源蔵の言葉を真剣に聴いていた子供は怒りに満ちた表情を浮かべると川縁で遊んでる2人のもとに駆けだした。


「あそこに居るのは僕のお母さんだ!」

唐突に興奮した様子で言われた2人はわけもわからず彼が指差した方向を見ると2人のおじさん達が見える

「どこにお母さんが居るんだよ!? 2人のおじさん達が居るだけじゃないか」

笑いながら首を傾げる子供の後ろでもう1人の子が

「お兄ちゃん、この子なんだかとっても怖いよ! お家に帰ってから遊ぼうよ・・・」

不安気な面持ちで兄を促す。


「あそこに居るのは本当に僕のお母さんなんだよ!」

源蔵から言われたことを更に強く言い張る彼に

「男はお母さんじゃなくてお父さんだろ!?」

兄の方が笑いながら否定した瞬間!

怒りに満ちた彼は鱗で全身を覆われた怪物となり2人を容赦なく襲い、殺してしまうと食べ始めた。


何事も無かったような顔をして2人の前に戻った子供は源蔵に血だらけになった子供の姿で

「お母さんじゃないと言った悪い奴を殺して食べた」

そう言うとニッコリと笑顔を見せた。


「そうか、やっぱり悪い奴だったんだな? お前が助けてくれたからお母さんはとても嬉しいよ」

源蔵は彼の頭をクシャクシャに撫でながらそう応えると

「それであの悪い子たちの名前は何て名前だったっけ!?」

続けて源蔵は訊いてみる。


子供はしばらく視線を宙に泳がすように間を置くと

「加藤・・・和也、和樹だよ」

名前の部分は違う声で同時に言った!


「そうか、お前は本当にいい子だ! さぁ、帰ろう」

源蔵は満足そうに言うと子供の手を引き、周囲に引き揚げの合図を送り迎えに来た車に乗り込むと

「もっと色々、試してみても面白いな?」

雄治の顔を見ながら楽しそうに言って上着を脱ぐと子供の頭から被せた。

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