第15話

「熱は無いようね!?」

拓海から受け取った体温計を確認しながら記入した看護師はそう言いながら病室の扉を開け立ち去り掛けたが思い出した様に立ち止まると

「いつもここに来てる彼女だけど何か今日は心配そうな顔で帰って行ったみたいだから連絡した方がいいわよ」

そんな言葉を言い残し扉を閉めた。


廊下を歩きながら自分が何を言ったのかを思い出せないような素振りで首を傾げる彼女だった。


母親の静香は着替えを取りに自宅に帰っていた

いつも1時間ぐらいで急ぎ戻って来るのだが先程、病室を出て行ったばかりである。


「電話してみようかな・・・?」

誰に問い掛ける訳でもなく枕元にある携帯を取ると呟いてみたがやはり気になったのか未希に発信した。


「もしもし、拓海くん!?」

呼び出し音が鳴るか鳴らないうちに彼女の声がする!

意外と元気そうな声に少し戸惑いながらも

「今日も寄ってくれてありがとう!」

「何か心配そうな顔で帰って行ったって聞いたんだけど・・・大丈夫!?」

彼はさっき看護師さんから聞いたままの質問をした。


「えっ!? そんな顔をしていたのかなぁ・・・?」

しばらく考えていたのか、間が空いた後に

「大丈夫よ、雨ばかり降り続いてるからそんな顔をしているように見えたのかも知れないけど拓海くんの声が聴けて嬉しいわ! 心配してくれてありがとう」

彼女の素直に喜ぶ声に病状も好転しない拓海は逆に勇気づけられていた。


取り留めも無い毎日の彼女との会話でこれほど元気が貰えるとは彼にとって彼女は病気を治してくれる魔法使いと思えるほど大切な存在だったのだ。


そんな彼女としばらく何気ない会話をしていると病室の扉が静かに開く音がした・・・

いや、音はしなかったのだが異様な気配に勘の鋭い彼が気づいたのだった。


「誰!?」

彼は携帯を持ったまま問い掛けるが勿論、返事をするようなら音も無く扉を開ける必要も有るまい!

携帯から聴こえる拓海の声に未希は目を閉じ細く小さなステッキを握り締める。


扉は開いているのだが病室の中の様子を伺っているのか、人影は見えないが誰かと言うより凶悪な何かが向こう側に存在するのがわかる!

「誰かが扉の向こうに居る・・・」

彼がそう携帯に言った瞬間、未希の唇が呪文を囁き魔法が発動し彼の目前に琢磨が出現した。


1度だけ未希に紹介され会ったことがある・・・

その時はちゃんとした服を着ていたのだが今ここに現れたのはトランクスに片脚を突っ込んでままのほぼ全裸の琢磨である!?


彫刻で見るような美しい筋肉で覆われた身体に白いお尻が可愛く覗いている!

「琢磨さん・・・ですよね? 大丈夫ですか?」

思わず聞いてしまった拓海の大丈夫かは憐れな姿のまま、ここに登場させられた彼に対する配慮であった。


「何であいつはいつもこんな間の悪い時にばっかり俺を呼び出しやがるんだ!?」

「パンツぐらい穿かせてくれてもいいと思わないか?」

慌てて穿きながらそう言った彼に黒い影が襲いかかる!


全身を爬虫類みたいな鱗で覆われた化け物が大型のナイフを片手に攻撃して来たのだが一瞬早くそれを拓海の前で琢磨が受け止めた。


まさに間一髪と言うのはこの状況を言うのだろうが余裕さえ感じさせる如き登場であった!

「冥府へと送ったはずだが生きていたのか!?」

ナイフを持った右手を掴みながら琢磨が言った!


人間の形をしているが人間では無い!

相手が琢磨だから右手を持っていられるが恐らく重機並みの力であろう!?


ほんのしばらく2人は揉みあっていたが琢磨は相手の右手を掴んだまま病室のコンクリート壁に叩きつけた!

病棟に響き渡るような衝撃がして相手の体は壁にめり込んでいる。


その衝撃でナイフを落とした相手は襲撃を諦めてしまったのか、病室の窓ガラスを突き破り3階から下に飛び降り逃げて行った!

追い掛けても良かったのだが琢磨にとって拓海を危機から救い出し、守ることが未希に頼まれた最優先である。


彼は拓海に振り返ると

「怖い思いをさせて悪かったな・・・大丈夫か?」

何事も無かったかのように優しい声で言った。


その声に安堵の表情を浮かべる未希は少し遅れ「大丈夫なのね!?」と拓海に問い掛けた。


その凶悪な影は街灯の闇の中に消え去ったがその存在を示すかのような壁に残された形跡は人間同士が戦ったような痕跡を遥かに超えるものであった!


連絡を受け、急ぎ現場に向かった結は壁に残された痕跡を見てここで何が起こったのかをすぐに理解出来たが他の捜査員達はどのような衝撃で壁にこのような痕跡が残るのかも、このような衝撃を受けても立ち去ることが出来る者がこの世に存在するのかが理解出来ない・・・?

まるでSF映画の特撮現場である。


琢磨と拓海は別室で結に詳しい話を聞かれた!

常識で有り得ないことを日常的な言葉で説明するのは非常に難しいことなのだ。


「琢磨さん、犯人の顔を見ましたか?」

テーブルを挟んで腰掛けた結の質問に

「君が追っているのは人間じゃない! 黒蛇かと思ったが奴よりも弱く人間に近かった・・・あれは誰だ!?」

質問に質問で返す琢磨に結は

「それがわからないから調べてるんじゃないですか」

そう言って堪え切れずに笑った。


「人では無いが人に近い・・・?」

何かが記憶の奥底で引っ掛かってるような気がするのだが思い出せない結だった。

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