第13話

数年前のここは町外れにある廃工場である

倉田 源造と西岡 雄治は崩れ去った建物を2人して見ながら話しをしていた。


「こんな所まで来て一体、何をするんですか?」

夕陽も沈みかけたこの場所で雄治は源蔵に聞いた。


「お前は知らんだろうがここは多くの白骨死体が発見された場所でな、誰も近づこうとしないし買い手も付かず放置されたままで安かったんで俺が買ったんだ」

源蔵は雄治に説明しながらがれきの中に足を踏み入れると、ついて来るように手招きした。


もはや暗くなってしまったがれきの中を2人は懐中電灯を片手に足下を照らしながら奥へと進んで行く。


敷地としてはそれほど広くはない

2人は頑丈そうな古びた机の前まで来ると止まった。


「何か高級そうな机ですね? 何か硬い木で出来ているような感じがしますがこれを見せる為にここへ・・・?」

そうでは無いことは最初からわかっているのだが源蔵の嬉々とした表情を見ながら雄治は聞いた。


「ここらは警察が念入りに調べて回ったそうだがこの机のカラクリにはどうやら気づかなかったらしい」

源蔵はそう言いながら机の下を照らすとガサゴソと何かを外すような動きをしていたが

「おい、これをちょっと見てくれないか!?」

雄治にそう言いながらやや体を右に寄せ明かりを灯したまま彼の見るスペースを作った。


「何でしょうか・・・これは何かの卵みたいな」

大きさとしてはバスケットボールぐらいであろうか?

だが現代に於いてこのような巨大な卵などは存在しない!

作り物だとでも思ったのか雄治は興味深げに右手を伸ばし、卵らしき物に触れてみた。


何やら生温かい感触が感じられ殻を叩いてみるとかなり硬そうな音がする!

作り物などでは無く、生きていると明らかに判断出来るのだが作り物では無いとして何の卵なのか?

2人はお互いに顔を見合わせた。


「これは都市伝説みたいな話で信憑性は全く無いのだがここには黒蛇と名乗る邪悪な神が住んでいて善良な神との戦いに敗れ冥府に封印されたらしいのだ」

源蔵は以前からこの手の話が好きで雄治はよく付き合わされていたのだがこの卵らしき物を見てしまった以上はこれを都市伝説と決めつけるわけにもいかなかった。


真剣な顔つきで源蔵を見る雄治に

「お前は頭もいいしそこら辺の学者さん達よりは確かな知識を心得ているからなぁ・・・この卵を持ち帰って調べてはくれないか?」

上着のポケットから取り出した厚手の袋に卵を大事そうに入れながら源蔵は言った。


雄治は某有名大学病院で外科医として主たる地位にあったのだが、もともと人の命を救うことに興味は無く蛇の道は蛇と言った所だろうか?

今はあっさりと大学病院を辞め源蔵が提供する研究施設で治すこととは真逆の研究を1人でやっている!

勿論、その施設は闇の世界で行われた汚い金で設備が整えられた人体実験も平気で行う場所である。


袋に卵を入れ雄治に渡した源蔵は2人して何やら談笑しながら廃工場を去って行った。


それから数日ばかり過ぎた研究施設の一室である

「あれから色々と調べてみたのですがあの卵の中には人の形をしたモノが入ってました!」

「人間みたいなモノで多分、黒蛇とか名乗っていた神の卵かと思います」

淡々とした口調で雄治は向かい側に座る源蔵に告げた。


「ほう!? それは驚きだなぁ・・・で、育つのか?」

予想でもしていたのか冷静な反応で源蔵は雄治に聞く

「何とか殻に細かい穴を開けて中の個体の細胞を取り出し分析してみたんですがほぼ人間と変わらない物でした」

「再生能力が非常に高いことと成長が早いです」

そこまで言った雄治は前かがみになり小声で

「あと数日したら生まれますよ・・・どうします?」

防音が施された部屋で2人きりなのだから別に小声で言う必要もないのだがやや興奮しているのだろう。


「そうか? 生まれるのか!? そりゃ楽しみだな」

雄治の興奮を感じ取ったのか源蔵は笑いながら言うと

「役に立つようなら俺たちの好きなように使い、役に立たないモノなら始末すればいいだけの話だ!」

冷酷な表情に戻ると雄治にそう言った。


数日後、生まれそうだと報告を受けた源蔵は研究施設へ向かい雄治と2人して強化ガラスに保管された卵が割れて、中から出て来るのを見守った。


パリパリと硬い殻が破れ落ちて行き、卵の形状からすれば意外と大きな幼児らしきモノが出て来るとすぐに立ち上がりガラス越しに2人の顔を見て笑った!

2人の顔を交互に見比べながら確認するとその口もとは

「お父さん・・・お母さん・・・?」

そんな動きをしながらテレパシーのような可愛い声が聴こえて来た。


「そうだよ・・・お前のお父さんとお母さんだよ」

そう言った源蔵は愉快そうに大笑いしながら

「こりゃ相当、使えるんじゃないのか? 思うがままに操れるようにお前がしっかり教育してくれ! 頼んだぞ」

雄治の肩を軽く何度も叩きながらそう言った。


黒蛇が残したモノは生まれた場所を間違えた!

運命とはこうも負の連鎖を引き継ぐものなのだろうか!?

ここに生まれたことで幼児の運命は暗闇に包まれたまま破滅への道を突き進むのだろう?

この残虐極まりない2人の意思に委ねられて・・・

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