第5話

深夜のビル街にある駐車場・・・

麻薬の取引が行われるとの情報を入手した警察は多数の人員を各所に配置し、万全の体勢で待機していた。


昼間はまだ残暑が厳しいのだが深夜ともなると気温も急に下がり涼しいと言うより肌寒い感じがする。


佐倉 結は他の警察官と一緒に駐車場近辺で待機していた!

彼女も今では女性ながら警部である、今年に入って麻薬捜査官として配属され数人の部下を持つようになった。


ドリームクラッシュ!

この麻薬を製造、販売、流通させていると思われる組織は繁華街に堂々と看板を挙げ正当な会社手続きを得ているのだが代表として座っているのは倉田 源造という裏社会に巨大な組織を持ち、君臨する男である。


一時的に能力を上げる効果が有るとされるこの麻薬は学生達を中心にあっという間に世間へと拡大し常習性が極めて強い為に麻薬を手に入れる為の犯罪が多発している。


金銭だけでなく麻薬の代償として犯罪に駆り立てる手口は卑劣というよりは何を目的としているのかわからない愉快犯に近い行為であった!

特にナンバー2と言われる西岡 雄治は狡賢く魔法を使うと噂されているが警察署内では非現実的だと笑って誰も信じていない・・・

だが彼女は黒蛇との戦いで実際にその非現実的な者と戦っているし魔女と呼ばれる老婆とも対面しているのだ。


やがて数台の車が駐車場内に入って来た・・・緊張も高まる!

どうやら車は3台のようだ、街灯の下で静かに止まる。


「久し振り!」とか大きな声で挨拶しながら8人の男達が車から出て来るが麻薬の取引にしてはやけに騒々しい!

しかし街灯の下では倉田と取引相手であろう?

中国系の男が親しげに握手しながら何か話している様子が見えた。


倉田は小型のジュラルミンケースを持ち、中国系の男の背後には大型のケースを2個づつ持った男たちが控えている。


状況的には「取引か!?」と思われるのだが緊張感が全く無いのだ!

やがて路上に双方のケースを置いた両者は中身を確かめ合っている、望遠カメラのシャッターが連続で撮影を始めるが無線からの報告では確証が掴めないらしい。


双眼鏡を手にして様子を伺っていた捜査指揮官は全員に動くよう命令を下した!

周囲の捜査員が一斉に動き出し彼等はあっという間に取り囲まれた。


ケースは鍵を掛ける時間も無く、蓋を閉じたままの状態で驚いた表情の彼等は両手を上げた!

その時、他の捜査員に促されて渋々と車から出て来た男は西岡である・・・勿論、両手は上げたままだ。


「やられた!?」 声には出さなかったが結はそう思った!

恐らくケースの中身は違う物に魔法ですり替えられてしまったに違いない・・・

彼等は薄笑いさえ浮かべているのだ。


「一体、こんな夜中に大勢でご出勤とはどうしたんですか?」

倉田は嘲笑を含んだ言い方で指揮官の方を見ながら問い掛ける。


「お前達こそこんな深夜に何をしている!?」

「ケースの中身と身体検査をさせて貰うがいいかな?」

やや怒りを堪える口調で確認する指揮官に倉田は中国語らしき言葉で相手に話すと双方がケースから離れる。


「こっちも暇じゃないんで手早く済ませて帰って下さいよ」

完全に笑いながら言った倉田は捜査員のチェックを受けながら焦るどころかむしろ楽しんでいる。


案の定、ケースの中身は西岡の魔法によりマンガ本に変えられてしまっていた!

現場に麻薬らしき物証が無い以上、いくら警察だからとはいえ、確保や連行するのは無理である。


「まさか子供の土産にそのマンガ本を譲って欲しくてこんな人数でここまで押し掛けて来たんですか?」

「勘弁して下さいよ」

倉田は小馬鹿にしたような声を指揮官へと更に浴びせ掛けてるが西岡はさっきから無言のまま無表情で冷酷な態度であった。


指揮官は号令を掛けた手前、何とか連行する理由を探し出そうとしたが何も見つからず引き下がるしか無かった・・・

中国系の男は小さいジュラルミンケースを持ち、倉田達の方は大きなケースに鍵を掛けて車に積み込む!

きっと鍵を掛けた今ならば麻薬と札束に戻っているのだろうが、それを追求したとて西岡がここに居る限り同じことだ。


ここまで来ながら何の成果も上げられず彼等はそれぞれの車に乗り込むと何処かに走り去ってしまった・・・

指揮官は悔しさの余り罵声を吐いて自分の掌に拳を叩きつけたが、ここに居る捜査員全体の気持ちを表したに過ぎない。


やはり自分達、警察でどうにか出来る相手では無い!

法律に寄って動いていては倉田達を止めることは不可能だというのは結にわかっていたが警察はそれをわかっていない。


彼女は急に山神や琢磨が懐かしく思えた。

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