第4話

高校生ぐらいであろうか?

街の中心に有る大きな病院の3階にある一室である。


病床から外を眺めている少年!?

青年と言ってもいいのだろうが年齢の割りにはまだ顔立ちが幼いので少年と言った方が似合いそうな感じだった。


右腕には点滴の針が刺さっていて規則的なリズムで液が落ちて彼の腕の中へと吸い込まれて行く・・・

ベッドの横には彼の母親であろう、編み物をしながら時折、彼の方に視線を向けながら付き添っていた。


ベッドに備え付けられた簡易テーブルの上には本が何冊か置かれ、ノートと筆記用具があるが彼の左手はペンを握ったまま先程から全く動いてはいなかった。


問題集であろうか?

そこに視線を向ける様な素振りはしているものの隣りに置かれた時計ばかり気にしている!

夕闇が迫ろうかという西に陽が傾きかけた頃、ピクッと彼の持つペン先が動いたかと思うと彼の視線はそこから見える道路沿いを歩く数人の女生徒達の姿をみつめていた。


年の頃は同じぐらいであろう、賑やかに話しながら歩く様子が見えているが病室の窓は閉じられている為、彼女達の声は聴こえない!

彼の表情は微笑む様に優しい眼差しでその姿がビルの陰に隠れて見えなくなるまでずっと眺めていた。


「ふーっ」

やや頬っぺたを膨らませながら溜め息とも吐息とも判断できない様な息を吐いた彼はテーブルに向かい真剣な面持ちで問題集を解き始めた!

付き添っていた母親は彼の一部始終を気づかぬ振りで見ていたが息子に対して掛ける言葉もみつからず編み物をそばに置くと何も言わず部屋を後にし洗面台で声を殺し泣いた。


生まれてすぐに心臓の欠陥が判明した彼は乳幼児の頃から病院にて手術し体力が回復するのを待ってまた手術という人生を繰り返しながらこれまで命をつないで来たのだ。


母親である彼女は自らが命を授けた我が子の試練を全て自分の責任であると責め続けていた・・・

だが彼はある日、自らを救う術も知らず苦しみ続ける母親に無垢な笑顔で言った。


「お母さん、僕を産んでくれてありがとう! 僕は幸せだよ」

彼女はその言葉に、その笑顔に、我が子を抱き締め我を忘れて声の限りに泣いた!


痛い時も苦しい時も彼は決して笑顔を絶やさない、笑顔でいることが生きる望みをつなぐものであるかのように・・・


彼の名前は柊 拓海(ヒイラギ タクミ) 父親は外資系企業を営む社長で淳一、母親は静香である。


我が子が死に直面する病に冒されているとは言え家族の絆は非常に固く、平穏な暮らしが営まれるならば裕福で明るい家庭が築かれていたに違いない。


窓の外にある電線には一風、変わった光景があった!

カラスとすずめが並んでいるのだ!?

ピノと山神、異星人と神様が病室の様子を見ながら何やら会話している・・・


「山神様は天界に帰ったんじゃなかったのかい?」

すずめに憑依したピノが尋ねると

「琢磨に頼まれて未希という娘をそれとなく見守っているんじゃよ・・・ところでお前こそこんな所で何をしておる?」

山神が羽根をを数回、羽ばたきながらすずめのピノに尋ねた。


「可哀想な人間をみつけてしまったんでね、何とか助けてやれないものかと毎日こうして眺めているんだよ」

何とも切ない口調でピノが答える。


「ジルが常々、嘆いておったがわしも今やっとジルのその気持ちがわかったような気がするわい!」

「人の運命とは神が操るものではないからのぅ・・・お前がすることにわしは何も言わんよ」

山神はそう言うと彼女達を追って飛び去る。


「検温の時間でーす」

いつもの笑顔でそう言いながら部屋に入って来た看護師を見たピノは何を思ったのか窓際に飛んで行くと今度は彼女に憑依してしまった。

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