第3話
「お前が居てくれるのは助かるんだが一つ、聞いていいか?」
事務所らしき室内でテーブルを挟んで革張りの高価なソファーに腰掛け話している2人。
「お前は魔法使いだと俺に言ったがこれまでもお前の活躍で仲間も随分と助けられたし警察の捜査からも逃れられることも数多いんだが、お前ほどの男なら組織に入らずとも贅沢三昧しながら楽に暮らして行けるだろうに俺の下で働くのは何故だ?」
笑顔で話し掛けた男の背後には屈強そうな若者が左右に立ちながら油断なく周囲に気を配っていた。
「何を言ってるんですか社長、俺が魔法を使うって言っても手品みたいなモンですよ!」
「俺の魔法は何も無い物から何かを作ることなんて出来ませんからねぇ、それに有る物を消すことも出来ないチンケな魔法使いです」
社長と呼ばれた男に答えている男はそう言いながら笑った。
社長と呼ばれた男は倉田 源造(クラタ ゲンゾウ)といい最近になり急激に勢力を伸ばした企業、ドリームクラッシュの社長であり、50代半ばぐらいであろうか?
その風貌からは明らかに一般人とは違う殺気みたいな物が伺われる。
魔法使いと呼ばれた男は西岡 雄治(ニシオカ ユウジ)某有名医科大学を主席で卒業するも悪の道に手を染めた男でこちらも50代の後半ぐらいであろうか?
捲り上げたワイシャツの左手には竜の刺青が有り、目の部分には星形の黒子が2つあるのだが刺青と重なり容易には見つけることが出来ないだろう!
風貌にこれと言った特徴もなく、人混みに紛れたらどこに居るのかわからなくなってしまう印象がありこの会社の専務であった。
ドリームクラッシュという会社組織を名乗っているだけで実際は警察が最も警戒している麻薬組織であり最近、会社名ともなっている新種の麻薬を西岡が開発し莫大な利益を上げている。
幻覚性や常習性が非常に強くこの麻薬による犯罪が最近になり多発しているのだがそんなことなど気にする様子は全く無い!
警察ではこの新種の麻薬に対し秘密裏に捜査チームを設け手掛かりを掴もうと躍起になっているのだが情報が極めて少なく西岡が使う魔法による捜査妨害がなされていることにさえ気づいてはいないというのが現状であった。
実際、魔法と言っても物語に出て来るような非現実的な物で警察にそれがわかったとしても信じる者もいないだろう、だからと言ってそれにどう対処すれば良いのかわかるはずも無い。
「また大口の取引が入って来ているんだ、お前に頼ってばかりで済まないが薬の方は大丈夫なのか?」
「お前の都合が悪ければ延期しても構わないんだぞ」
西岡に対しての信頼が厚いのだろう
倉田は商談の段取りを尋ねるが取引と言っても麻薬取引である!
こういった話は用心棒を含めた4人で日頃から行われていた。
後方の2人の胸には両側に膨らみが有り拳銃のような武器を携帯していることがわかるし、足や腰にも何やら武器を隠しているらしくこの様な席に同行しているのだから信用も有り、腕も立つのだと推測できるが身元を判別するような物は何一つ身に付けていない。
「材料の方も合法的に難なく仕入れられる物ばかりですし調合のやり方次第で薬にも毒にもなる代物ですからねぇ」
「最後に魔法をかければ出来上がる!」
「これを使った奴等が天国と地獄を見て苦しむ姿を想像するだけで快楽の極みですよ」
その不気味に笑う顔と仕草は悪魔そのものに見える
先程の表情とは一変し、狂っているとしか思えないものであった。
人を救う為の医学がこの狂人に寄って人を貶めるものに変わってしまうのだ!
何とも皮肉な話である。
「取引の日程と場所は当初の予定で行う、では宜しく頼むぞ」
倉田は右手を軽く上げるとガードの2人を伴い部屋を後にした。
西岡は部屋に鍵を掛けると左側の壁に両手をかざす!
すると壁から扉が現われノブを捻り扉を開ける、扉の中には薬を製造する為の設備らしき物が整然と置かれていた。
恐らくこの中で密かに作っているのだろう!?
中に入った彼が再び扉を閉めると壁はまた元のように戻り、扉は跡形もなく消えた。
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