第2話
ガシャーン!!
激しい罵声と共に食器やコップの割れる音!
また今日も始まってしまった・・・薬が切れるといつもそうだ。
怯えた表情そのままにお母さんはリビングの片隅で何か恐ろしい化け物でも見ているように震えていた。
僕はテーブルの下に隠れながらこの罵声や暴力を避けている!
父親は僕がまだ小学生だった頃、この家で首を吊って自殺したのだが、死んだ父も酒を飲んでは母に暴力を繰り返していた。
あいつ(父親)が死んでやっと平和な日々が来ると思っていたのに今度はこいつが家の中を一瞬で恐怖に変える!
こいつの状態がこうなってしまうと我が家の中では誰も止めることが出来ない・・・と言っても僕と母親だけしかいない。
最近、巷で密かに流行している新種のドラッグ!?
こいつはその覚醒剤を使い快楽を求め行き先も告げず、深夜の街を徘徊してはまたここに戻って来る。
ここが自分の帰る場所だからでは無い!
薬を買う金を得る為に戻って来てはこんな暴力を繰り返すのだ!
母はそんな理由があることも知らずある日から突然、変わってしまった息子をどう対処すればいいのかもわからず怯えて暮らす日々を続けているのだ。
「早く出さねぇとぶっ殺すぞ! 出せって言ってんだろうが!?」
そう言ってテーブルを叩くと母親はビクっと飛び上がりそうな仕草で急ぎハンドバッグを持って来ると中から財布を取り出し中身を全部、テーブルの上にぶちまける。
何故、ここまでこいつに従順なんだ!?
自分が生んだ息子だからなのか?
それとも父親みたいに自分から死んでくれるのを待ち続けているのか?
食器棚のガラスに映ったこいつの顔を見たらわかるだろう!?
こいつは父親のように自分で死ぬような奴じゃない!
いっそ僕がこの手で母さんの苦しみを取り除いてやろうか?
目の前に散乱した物の中に包丁をみつけた僕は静かにそれを拾うと強く握り締め母の表情を伺った!
母は僕の真剣な顔を見て決意を感じたのかゆっくり首を左右に振りながらやめるように目で合図した。
テーブルにぶちまけられたお金を薄笑いを浮かべながら見たそいつは拾い集めて自分のポケットに入れると目的を達する金額に足りるのだろう
「ありがとう、母さん!」とニッコリ微笑むとリビングを後にし、行き先も告げずいつものように夜の街へと出掛けて行った。
母は体の力が全て抜けてしまったかのようにその場に崩れ落ち放心状態である
僕はテーブルの下から這い出るとそんな母を心配しながらもあいつの後を追って玄関を飛び出す!
あいつは両手をポケットに突っ込んだまま、玄関が開く音に振り向いたが僕にお前は帰れと言うように手を挙げる・・・
あいつの後を追いながら僕も振り返り心配そうに見送る母親に大丈夫だからという仕草で手を挙げ後を追った。
僕は加藤 和也(カトウ カズヤ)で高校2年生、前を歩くあいつは僕の双子の兄で和樹(カズキ)である。
物心ついた頃から僕は家庭の暖かさというものを何一つ感じることが出来ないままこれまで耐えて生きて来た!
幸せな日々を最初に壊したのは父親であり、今度は兄の和樹である・・・何故、兄は変わってしまったのか?
子供の頃は父親の暴力から僕を庇い殴られながら何度も助けてくれた優しい兄だった彼を変えてしまった薬とは一体、どんな薬で兄はそれをどこで手に入れているのだろうか?
警察に頼れば兄は逮捕されるに違いない!?
悪いのは覚醒剤を兄に供給している奴等なのだ!
僕は無力かも知れない!?・・・だが必ず突き止めてやる。
後ろを振り返りもしない兄の後を距離を置き身を隠しながらこっそりとついて行く・・・
蒼く輝く月明かりと妖しく光る街灯の中を「コツ、コツ、コツ」と足音が木霊するように響く夜だった。
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