第32話
「どうしたのだ!? 森の伏兵はまだ来ないのか」
怒鳴るような口調で言う張角に傍らの兵は怯える。
「この機会を逃すとは間の抜けた愚か者たちだ!」
「お前が行って見て来い、すぐに動くように言って来るんだ」
張角は部下に命じながら焦っていた!
相手は我が軍の僅か3分の1程度しかいないのに先程から押されっぱなしなのだ。
このままではこの本陣とて危ういのではないか!?
そんな焦燥感に罵声が飛び出し始めていた・・・
いざとなれば城内に逃げ込むか?
魔法を使って難を避けるか?
方法はいくらでもあるのだが考えていた以上に相手が強過ぎる!
クラリスとはただ呂布好みの可愛さだけで何の取り柄も無かったのではないのか!?
明らかにクラリスとは違う誰かが指揮を執っている。
敵の兵数を見る限り、森の中に配置した約3万もの軍勢を押さえるだけの余裕は無いはずだ・・・
横合いから伏兵が突っ込み一気に勝敗が決してしまう計画だったのだが一体、何が起こっているのだ?
そんなことを考え始めた張角の背後で城門が重々しい音を立てながら開くと呂布と親衛隊である武装巨人の姿が現れ、呂布はゆっくりと張角のもとに進んで来た・・・
「何だ、この有り様は? お前の伏兵はどうしたのだ」
一見して劣勢であるとわかる戦況に呂布は呆れた様子で張角に尋ねると笑った。
こちらには超人とも言えるこの男が居る!
張角は少し冷静さを取り戻すと敵味方、戦う兵士たちの様子を眺めていたがそれはある方向で止まった・・・
「あれは!? 魔法使いの小娘で確か未希・・・」
呟くように言った張角は何故、この世界に彼女が居るのかをしばらく考えていたが見当もつかない。
敵の軍勢がこれほどまでに強いのは彼女がクラリスに力を貸して助けているからではないのか?
思案するうちにそういう結論に辿り着いた!
張角は偶然とも言える発見に薄笑いを浮かべると呂布に
「親衛隊の巨人を5人ほど貸してはくれませんか?」
そう言った。
「何か良い策でもみつけたようだな!?」
「久し振りにお前の嬉しそうな顔を見た気がするぞ、連れて行くが良い!」
呂布はそう言うと5人の巨人を指名し張角と一緒に行き、指示に従うように告げた!
指名された5人の巨人は張角の前に進むと整列する
「では私の後について来てくれ! ちょっと息の根を止めて置かねばならん奴がいるんで一仕事してもらうぞ」
そう言った張角は馬車を軍勢と共に動かすと完全武装した巨人に守られながら未希が居る場所に向け猛然と前進し始めた。
5人の巨人は行く手を遮る千代の軍勢を蹴散らしながらあっという間に未希のもとへと辿り着くと張角は軍勢に守られながら馬車を降り彼女の前に立った。
「誰かと思えばあの宝石を譲ってくれたお嬢さんではないか?」
「何故、このような場所に居るのかは知らないがみつけたからにはその命をもらうぞ!」
張角は未希にそう言うと5人の巨人を呼び寄せ戦闘隊形をとらせた。
「あら、あなたは西岡 雄治だったかしら?」
「この世界では張角と名乗ってるみたいだけどそんな巨人を何人並べたって私に勝てるとは思わない方が身の為よ」
拓海の病気という弱みが無くなった未希は張角と巨人、それを取り巻く多くの軍勢を目の前にしても余裕の表情で張角に言い返した。
「な・・・何だと!?」
「どんな魔法使いなのかは知らんがその生意気な口が最後まで叩けるといいがな!」
張角は怒りを抑えた口調で言うと攻撃を命じた。
巨人が未希を守る兵士を切り付けながら突進して来ると馬超と関羽が巨人の前に躍り出て何とか防ごうとするが知能を持ち、武装した5メートルを超える巨人である!
5人も居る巨人を2人で食い止めれるはずも無い・・・
1人の巨人が未希に近づき攻撃を加えようとした瞬間、突然現れた白虎の上から飛び降りた青年が巨人の繰り出した槍を素手で掴むと自分の方へ引っ張り込み、強烈なパンチを顔面に叩き込んだ!
巨人は頭部を砕かれながら数メートル後方へと吹き飛ぶとピクリとも動かなくなっている。
「拓海くん!」
未希は嬉しそうに叫ぶような声で青年の名前を呼びながら駆け寄って行く!
その合い間にも2人の巨人が襲い掛かって来たのだが青年へと辿り着く前に未希が杖を軽く振っただけで敵軍の中へと吹っ飛んで行った。
その様子を見た拓海は笑顔で
「助けなくても大丈夫みたいだけど助けに来たよ」
駆け寄った未希を抱き締めながらそう言った。
拓海の胸に顔を埋めながら未希は
「元気になって本当に良かったわ!」
「助けてくれてありがとう・・・拓海くんが居れば何も怖くない」
そう言って拓海から離れた未希は張角を睨みつけると
「だから無駄だって言ったでしょ!?」
「あなたにはたっぷりとお返しをしなきゃいけないわね!」
「もうすぐ千代さんが来てあなたを抜け出すことが出来ない永遠の地獄へと
送ってくれるわよ」
そう言った未希に張角は狼狽えながら未希を早く殺してしまうように兵たちに大声で命令した。
遠くから奇妙な動物に乗ったクラリスと紅のマントをなびかせ白馬に乗った騎士がこちらに全力で駆けて来るのが見えていた・・・
女性のように思えるのだがあの風格は何だ!?
彼女が通過する度に敵兵の意気は上がり我が軍は押されながら後退して行く。
奴らを率いているのはクラリスでは無い!
あの真紅の鎧に身を包んだ白馬の女性騎士が奴等をここまで強くし、我らを圧倒しているのだ・・・
張角はすでに底知れぬ不安に陥っていたのである。
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