第33話
「奴が来る前にあの女を殺せ!」
張角の命令に彼の軍勢が一斉に襲い掛かるが未希に近づくことさえも出来ない。
そこには伏兵を2人で全滅させた山神と琢磨も加わり成す術もなく張角軍は数を減らすばかりであった!
頼みとしていた5人の武装巨人も山神が繰り出す必殺の剣ですでに存在していない。
「まさか、あの2人が伏兵を・・・?」
有り得ないことなのだが目の前で我が軍を薙ぎ倒すあの2人は明らかに強さが桁違いなのだ!
ここに居てはマズイ・・・
そう思った張角は魔法を使い呂布のもとへと逃げることにし目を閉じて呪文を唱えた。
信じられないことに張角が立つ場所は目を閉じる前と変わらなかった!?
ならば、もう一度・・・更にもう一度!
何度、唱えてもここから離脱することが出来ない。
「残念だったわね!?」
「あなたの手品みたいなレベルの魔法は私が居る限り通じなくってよ」
いつの間にかすぐ目の前に現れた未希が言った!
張角はすぐさま剣に手を掛けたがその瞬間にはそこに姿は無く、離れた場所に存在する。
「瞬間移動!?・・・いや、あれは更に高度な魔法だ!」
自分が唱えた魔法をリセットする魔法を掛けた上で更に魔法を自在に操っている。
「あの未希という魔女から先に殺して置くべきだった」
張角は歯噛みしながら呟くと馬車に乗り込み馬を走らせ逃げようと試みた!
だが彼が乗り込んだはずの馬車は消えてしまい地面に尻餅をつく恰好で座る形となる・・・
最強の魔法使いを相手に自分がどんな魔法で挑んだとて敵うはずもないことは張角が一番、わかっていた。
それでも諦め切れずに炎で焼き尽くそうと試みるが当然のことながらローソクで灯すほどの炎さえ出ない!
未希という魔法使いを前に張角は何の力も持ち合わせていない軟弱な人間となってしまったのである。
のろのろと力無く棒立ちとなる張角の前に勢いよく白馬が止まり、彼の目前に刃が突き付けられた。
「お前が張角だな?」
怒気を含む声でも無く、静かにただ確認するような声に馬上を見上げるとそこに千代が居た!
「お前は一体、誰なんだ!? どうしてこの世界に居る?」
張角の疑問は当然であろう
呂布が想像に寄り描いた世界に千代が存在するはずも無く、クラリスという少女を相手に面白半分で戦っても勝てる戦いであったのだ。
「我らが大将であり、希望である千代殿だ!」
遅れて到着したクラリスが誇らしげな口調で言った。
「千代? 大将はクラリス、お前では無いのか!?」
呆気にとられた表情で問い掛ける張角に
「私が大将とでも思ってさらったというわけか?」
クラリスはあの恥辱を思い出すかのように怒りを含んだ口調で言うと周囲を抜いた剣で指し示しながら
「お前の悪行もここで終わりだ!」
「お前の軍勢は1人残らず我らが討ち果たした・・・」
「未希殿がここにおられるから魔法さえも使えまい!?」
「ここに朽ち果て、己が犯した罪の数々を悔いるが良い」
ひと言、ひと言を噛み締めるようにクラリスは言った。
「悪かった! この通り謝るから許してくれ」
張角は千代の馬前に土下座を繰り返し命乞いをする
「私は呂布の命令通りに動いていたに過ぎないんだ・・・」
尚も馬前にすがり付くように進み出ようとするが
「お前はそうやって命乞いをする罪無き弱い者を今まで何人、殺して来たと思ってるんだ!」
クラリスは張角の前に出ると足で思い切り跳ね除ける。
終始、不気味なほどに黙ったままの千代は馬から下りると剣を頭上高く振り上げ渾身の力を込めて起き上がろうとしていた張角の身体を一気に切り裂いた!
弁解を続ければ何らかの余裕が有るだろうと予想していた張角は驚愕の表情を浮かべながら天を仰ぎ何か言い掛けたまま、血飛沫を上げ地面に倒れ込み果てた。
周囲から喜びを爆発させるように大歓声が上がるが千代は厳しい表情を保ったまま
「次は呂布です!」
「奴を倒してこそ、私たちが願う本当の平和は訪れるのです」
厳しい口調で言うと馬に跨り進撃の号令を掛けた。
「いくら極悪人とは言え、自分の手で殺したくは無かったじゃろうて・・・誠に強い精神力じゃ」
一部始終を見ていた山神はそう呟いた・・・
「終始、無言を貫いたのは自分の弱さが出て来るのを防ぐ為でもあったんだろうなぁ?」
山神の言葉に頷きながら琢磨が言う。
馬を反転させた千代の目から一粒の涙が零れ落ちる
自分で裁きを下すことの重さを我が身で知った彼女の姿は誰の目にも神聖な神の如く見えた!
現世では雄治、この世界では張角を名乗る男は山神から託された剣により命が絶えると消滅した・・・
残るは源蔵こと呂布である!
「張角は何をして遊んでるんだ!?」
「誰か奴の所へ行ってさっさと片付けてここに戻って来るように伝えろ!」
張角が消滅したことを知らない呂布は遊び半分で楽しんでいるらしい?
部下にそう命じると据えられた椅子に腰掛けた。
「ドーン!」
凄まじい爆音が轟き、呂布の居城の一角が破壊され崩れ落ちるのを振り返って見た彼は怒りながら
「どこから撃って来てるんだ!?」
「流れ弾でも当たったら敵わんからなぁ・・・陣を前に移すぞ」
面倒臭そうに立ち上がり部下に命令する。
「ウオォー!」
地響きと共に千代の軍勢が間近に迫ると呂布は密集隊形を整え、敵を迎え撃つように指示し槍を持つと馬に跨り
「この呂布様の恐ろしさを存分に思い知らせてやる!」
武装巨人を引き連れて戦場に飛び出した。
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