第28話
「グワッ、グワッ!」
耳元で聴こえる鳴き声にクラリスは朦朧とした意識ながらも上体を起こした。
「アリス!?」
彼女は涙を浮かべ鱗混じりの顔を撫でると抱き締めた!
そのまま嗚咽を漏らし小刻みに肩を震わせながらアリスにしがみつくと泣き続けた。
身の危険に晒され続け侮辱に耐え、気力だけでここまで来たものの力尽きて倒れてしまったクラリス・・・
馬超から譲り受けアリスと名付けたこの動物は彼女を探し続け、ここまでやっと辿り着いたのだろう?
荒い息がクラリスの耳元で聴こえていた。
「グワッ!グワッ!グワッ!」
激しい鳴き声で身体を地面に伏せるとクラリスに速く背中に乗れと言わんばかりに催促する!
見れば張角から遅れた大軍勢が城を目指して帰還する砂埃と天地を揺るがすどよめきがしていた。
みつかってしまったら何をされるかわからない!
「疲れているのにごめんね!?」
そう言ってクラリスは背中に乗ると首筋にしっかりと抱きつき振り落とされない姿勢をとった
アリスは彼女を乗せて立ち上がると猛烈な勢いで城門を後にしながら軍勢から遠ざかるべく走り出した。
一時間ほど走り続けたアリスは湿地帯にある小さな森の中に駆け込むとクラリスを下ろし倒れるように横になり動けなくなってしまった!
彼女は大きな葉っぱを探し水を汲んで来るとアリスに与え、優しく撫でてやりながら「ありがとう」を何度も何度も繰り返した。
アリスには人の言葉が理解出来る能力がある
日頃から友達みたいに何かと話し掛け、世話をするクラリスを慕い、限界を超える力でここまで運んで来たに違いないのだ!
彼女が撫でるその手には感謝の気持ちが込められていてアリスは安心したように静かに目を閉じた。
小さな森だが小川のせせらぎや時折り聴こえる小鳥のさえずり、静かな森の中でクラリスもアリスに寄り添うように眠りについた。
「お楽しみかと思ったら何もしないで帰したんですか?」
張角の言葉に呂布は笑うと
「裸にして放り出してやったよ、あの憎しみに満ちた顔が可愛くもあるんでなぁ」
椅子に深々と腰掛けたまま言った呂布は
「あの調子じゃ次は死ぬ気で攻めて来るだろう?」
「そこでまた捕えて辱めてやろう、いずれ力尽きて大人しくなるだろうからその時にでも楽しませてもらうさ」
楽しげに言いながら腰を上げる。
「その後はもう必要ないってわけですね?」
首を切り落とす仕草で尋ねる張角に呂布は
「この世界の人間は我々と違って年老いるからな!?」
「年頃を過ぎた女に構ってやるほど退屈はしないだろう」
そう言いながら背伸びをして欠伸をすると傍らに置いてあった釣竿を手に取り
「久々にそこら辺で大物でも釣り上げて楽しむか?」
張角に向かって手招きした。
「そう言えば久し振りですね? そろそろ遅れた軍勢も城に戻って来る頃でしょう、体制に抜かりは有りませんからゆっくりと釣りでも楽しみましょう!」
微笑みながら歩み寄った張角も釣竿を手に取り先に歩き出した呂布に続いて階段を下りて行った。
どれくらい眠っていたのだろう?
アリスの動く気配で目覚めたクラリスは相棒の復活した元気な姿を見て嬉しそうに抱きついた!
「大丈夫なの? 無理しなくても私は大丈夫よ」
そう言う彼女に身体にしては小さ過ぎる羽根をパタパタさせながら元気をアピールするアリスに微笑みながら
「じゃあ帰りましょう! 貴方だけを頼りにして悪いけど私を皆のもとへ連れて行って頂戴」
頼れる相棒に支えられ体力と気力を取り戻したクラリスは身軽にアリスへ飛び乗るとそう言った。
「グワッ!」
勢いよく鳴いたアリスは彼女を乗せ仲間が待つ本陣が有る方角へと昇る朝日を背に受けながら走り出した!
千代は無事に逃げてくれただろうか?
無事ならきっと私を身代わりにしたことを後悔しているに違いない!
元気な姿を見せて安心させてやらなくちゃ!
そう言えば死ぬつもりで張飛に告白しちゃったんだ!?
なんか顔を合わせるのが照れ臭いなぁ。
生きて帰れるんだ・・・
心地良い風に頬を撫でられながらそう思った瞬間、彼女の目から自然と涙が溢れ出した。
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