第27話

馬車の中は煌びやかに飾りが施してあった。


クラリスの両側に残忍そうな男が2人、対面側には張角と左右に屈強そのものといった感じの男が2人・・・

彼女の両手には金属で作られた手錠が掛けられ馬車の床に鎖でつながれている!

格子の付いた小さな窓からはすでに呂布の居城と思われる巨大な城郭が見え隠れしながら走り続けていた。


捕えられてから1時間も経過していないのに呂布の城に辿り着くとは・・・

張角が使う魔法により、この馬車だけが瞬時にこの場所まで移動してきたのだろう?

張角が天蓋から身を乗り出したその瞬間から周囲に軍勢の気配がしなくなった!

軍勢を全て移動させるほどの魔法を使えるわけではないらしいがこれでは奴を追い詰めてもすぐに魔法で逃げられてしまうのではないか!?

いずれにしても厄介な魔法を使う男だ。


何とも厳重な造りであろう!

先程からもう何度、城門をくぐり抜けたかわからない・・・

やがて馬車は止まり張角が下りると何やら話し合っているらしく、しばらく時間を置いた後に扉が開かれ床から取り外した鎖に引かれながらクラリスは連行される。


彼女の鎖を引いているのは5メートルほどの巨人であるが驚いたことにこの巨人には知性があるらしく静かに歩きながら誘導している

これまでに戦って来た巨人とはまるで違い西洋風の鎧に身を固め、腰には大きな剣と背中には数本の槍が抜き易いように取り付けられたベルトを巻いていた。


こんな怪物に襲われてしまったら猛者揃いの我が軍でも容易には倒せないばかりか多大な犠牲を出すだろう?

クラリスはこのことを孔明に伝えねばならないと考えながら何とか生きて帰る決意を固めた!

だが彼女の運命は彼女自身が決めれる状態に無く、これだけ厳重に囲まれていては逃げ出すチャンスとて訪れるとは思えない。


千代に会いたい!

張飛のもとに帰りたい・・・

切なる想いを胸に促されるがままに歩くクラリスは5人の巨人に周りを囲まれながら鉄製の頑丈で大きな扉を開けると城内へと入って行く。


張角の居城は殺伐とした陰湿な感じだったが呂布の居城は豪華というか至る所に美術品などが施され、憎しみを抱くクラリスから見れば悪趣味そのものでしか無い!

螺旋状に続く広い階段を上って行くと一層、豪華な広間へと辿り着いた。


見ると広間の奥に豪華な椅子が設けてあり、そこに1人の男が腰掛けてこちらを眺めている

「連れて参りました」

巨人の1人がそう言ってクラリスの手錠を外すと背後に並び立った!

手足の自由は効くが5人の巨人に背後を固められ逃げる手段さえみつからないまま立ち尽くした彼女を不気味としか思えない笑顔を浮かべ男が立ち上がった。


「もう少し時間が掛かるかと思ったが意外と早くここに連れて来られるまでに成長したんだな!? クラリス」

男は気安くそう話し掛けながらゆっくりと近づく・・・

その笑顔の裏に潜んだ冷酷さが恐怖を与え思わず身構えたクラリスに尚も無造作に近づくと

「無駄だ! 俺に勝てる者はこの世界に存在しない」

そう言いながら更に近づいた。


殴りかかるクラリスの右手を男は素早く掴むと背後から抱き締め耳元で囁くように言った

「今すぐ殺してもいいんだが、もう少し俺も楽しみたいからな!?」

「しばらく屈辱を味わってもらった後に仲間のもとに帰してやろう」

抱き締めた彼女を解放すると頭を撫で回しながら

「着ている物を全て剥ぎ取ってその辺に放って置け!」

男の言葉に控えていた巨人がクラリスの衣服を破りながら剥ぎ取ってしまうと全裸の彼女を男の前に残したまま階下へと立ち去って行った。


「お前が呂布か!?」

何も隠す術の無い状態にされたクラリスは憎しみの炎が燃え上がるような目で睨みつけながら男に問い掛けた!

「そうだ! 俺が呂布でお前を生み出した創造主で有り、この世界の絶対的な神である」

そう言った呂布は再び椅子に腰掛けると

「さあ、どこにでも逃げるがいい! 俺が作り出した女がどんな女に成長したのかを見てみたかっただけだ」


警戒しながらじわじわと階段に下がるクラリスに

「お前に手は出さんように命じてあるからその辺で粗末な服でも盗んでさっさと帰るんだな! 次は存分に楽しませてもらうことにしよう」

そう言って笑う呂布の声を聴きながら彼女は階段を急ぎ駆け下りると開いていた扉から城外に出た!

干してあった衣服を取り、物陰で身に着けながら彼女の目には悔し涙が拭っても拭っても溢れ出て来る。


「千代に会いたい・・・皆んなの所に早く帰りたい」

呟くように言った彼女の声は震えていた・・・


夢遊病者のようにふらつきながら歩くクラリスを誰1人気に留める者も無く、あらかじめ開け放たれていた城門を次々に抜け、城壁の外に出ると背後で門の閉まる重々しい音が鳴り響く!

その音と同時に彼女は力尽き倒れてしまった。

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