第25話

※作品中に見知らぬキャラが登場しますが「蒼き魔法使い」に登場するキャラでこの物語は「蒼き魔法使い」と繋がっていします。


「お前がクラリスか・・・?」

神経質そうな顔にこの世界では見られない白衣姿の男は確かにそう言った。


千代を狙っていたのでは無かったのか!?

黄忠もクラリスもそう思ったのだがそんな思いは表情に出さず歩み寄って来る男を睨みつける!

何十年も経つのだが黄忠はハッキリと覚えていたこいつが張角だ。


千代と出会うまでは魔法で不老不死になったのだと思っていたのだがこの男も千代と同じで違う世界からここに現れて暴虐の限りを尽くしているのだ!

千代のような一途で正義感溢れる人間も居れば張角みたいに理不尽極まりない奴も居る。


どこの世界でも善と悪は共存しているのだろう・・・

黄忠とクラリス、生き残った者たちの憎悪の目を見れば彼らがこれまでどんな非道を働いて来たのかわかる!

一同はそんな憎しみを込めた目で張角を睨んでいた。


張角は左右の者たちに合図を送りクラリスの両手を縛り馬車の中に押し込んだ。


抵抗すれば残された黄忠たちの命に危険を及ぼすと考えたクラリスは大人しく縛られると指図されるがままに馬車へと乗り込んだのだが表情は無念の極みで歪む!

そんな一部始終を見ていた黄忠たちも同じ表情で嗚咽を漏らす者も少なくなかった。


「他の奴らはどうされますか?」

そう尋ねた配下の者に張角は舌打ちした後

「生かして置いたら面倒なんだが呂布殿の命令に逆らえば我らの命は無いからな・・・」

しばらく無言のまま考えた後に

「その黄忠という男は殺さない程度に痛めつけて他の奴らは適当に殺してしまえ!」

「生かして置いても無駄だ」

そう言ってクラリスを乗せた馬車に乗り込むと出発するように命じた。


自分の判断が間違っていなかったことを祈りながら黄忠の気持ちは固まっていた!

仲間をこのまま殺させるわけには行かぬ・・・

張角とクラリスを乗せた馬車が十分に遠くなるのを待つと不用意に近づいて来た敵の剣を奪い首を刎ねる。


血飛沫が舞い上がる中を素早く動くと捨ててあった自分の剣を拾い、周囲の敵を切り捨てながら仲間の兵たちと一緒に円陣を組んで襲撃に備えた!

10名足らずの黄忠たちに比べ敵は千人以上も居るのだから生き残れるはずも無い。


張角に命じられた男は黄忠もろとも殺して良いものかと迷い躊躇していたのだが、そこに黄忠が素早く放った矢が首に突き刺さると苦しそうな表情のまま倒れ息絶えた!

それを合図とするかのように巨人を含めた全員が黄忠たちを目掛けて襲い掛かって来た。


切っても切っても次々と襲い来る敵に無我夢中で戦いを繰り広げる彼らは1人、また1人と次第に数を減らして行った・・・

このまま敵に殺されるよりは自らの命は自分で絶つ!

黄忠がそう考え剣を首に当てた瞬間、これまで見たこともない鎧に身を包んだ男に剣を掴まれた。


黄忠はそれでも剣で自分の首を切ろうとするがどんなに力を振り絞っても動かないのだ!

そればかりかその男は周囲の敵を薙ぎ払うように切りながら血路を開いている。


男はようやく気づいたように黄忠を見ると

「もう十分に生きたじゃろうが諦めるにはまだちょっとばかし早過ぎるじゃろう?」

笑いながらそう言うと物凄い勢いで突っ込んで来た巨人を頭から2つに剣で切り裂いた!

続けて襲い掛かる巨人の拳を片手で軽く受け止めると剣を横に薙ぎ払い切り裂くと掴んだ巨人の上半身を敵軍の中に軽々と放り投げる。


強いなんてもんじゃなく、この男は戦いの神だ!

敵が何人、押し寄せようが巨人が何人、襲い掛かろうが瞬時にただの骸と化してしまう・・・

輝きと速さで良くは確認出来ないのだが剣先も長く身のこなしも鋭く、どうやってそこに動いたのかがわからないほどあらゆる方向に移動しながら敵を倒して行く。


あまりの光景に忘れていたのだが黄忠は先程から呆気にとられたまま何もしていなかった・・・

そのことに気づいた時は敵軍は跡形もなく消えて山と積まれた死体が散乱しているだけだった!

「もう少し早く来れれば良かったんじゃが遅れてしまい済まなかったのう」

男はそう言って呆れている黄忠の肩をポンポンと叩くと

「戦い続けて疲れているじゃろうが本陣に戻って皆を安心させた後にクラリスの救出じゃ」

何事も無かったかのように言って高笑いした。


「そなたの名前は何と・・・?」

黄忠は周囲の景色を信じられないといった顔で見ながらやっと男に問い掛けた。


「わしは柚木 義政(ユズキヨシマサ)皆からは山神と呼ばれておるがお主が黄忠じゃな?」

山神はそう名乗ると生き残ったが負傷で歩けなくなった2人を軽く肩に担ぐと本陣である船に向かって先に歩き始めた・・・

黄忠と歩ける残りの者たちは山神の後を追い掛けるように歩き出した。


見掛けは青年のように若いのだが話す感じは自分と同じぐらいか、もっと年上にも感じるこの山神という男が我が軍に加わってくれるのなら連れ去られたクラリスの救出も不可能では無い!

黄忠は彼の後ろを歩きながら感謝の気持ちで見ていた。


だがナゼ、千代殿ではなくクラリスを狙ったのだ!?

沈みかけた夕日が黄忠の影を細長く伸ばし困惑の色に染め上げていた。

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